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【オリジナル小説】 異世界メイドカフェ、営業中!! ~お帰りなさいませ、ご主人様♡~

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こちらはマンボウのオリジナル小説で
小説投稿サイト「小説家になろう」様にも掲載している作品です。

約17000文字、読了目安は30分の短編小説ですので
お時間がありましたらご覧くださいませ。

 

異世界メイドカフェ、営業中!! ~お帰りなさいませ、ご主人様♡~

 

第一幕 ご主人様、メイドカフェに来てくださいにゃ

 

 一度、来てみたかったんだよ。秋葉原。

 立ち並ぶビルを見回すと、どこもかしこも看板、看板、看板!

 あのデカデカと貼ってある萌えキャラは、アニメの宣伝かな。ビルの窓を覆うくらい大きな垂れ幕には「美少女格ゲー」の新作。あっちには堂々と「ギャルゲー」の看板。

 秋葉原……さすが萌えの街だね。ま、それだけじゃないのは知ってるけどさ。それを目当てに来る人もたくさんいるんだろうな。

 おおっ! あれが有名な『とらのあな』か。コミックやゲームはもちろん、同人誌を大量に売っているってのは俺の住んでるところにはないからなぁ。

 あっちの『ソフマップ』は、店頭も萌え絵のオンパレード。ソフマップって、パソコン製品の量販店なはずだけど、店の一面が萌え絵、萌え絵、萌え絵っ!

 そう、俺は秋葉原の初心者です。電車を乗り継いで初めて訪れた、萌えとオタクの聖地。

 ここはスゲーよ。とても俺の住んでる街と同じ国とは思えない。どこを見ても美少女イラストで溢れてて、「カワイイ」が見えない瞬間がないくらいだ。

 ビルを見上げてキョロキョロ、お店の前でウロウロ。初心者丸出しの動きをしていることに気付いた俺は恥ずかしい気持ちになった。けれど、誰もそれを笑う人なんていないんだね。

 みんながみんな、オタクの人たちも、そうでない人たちも、それぞれが秋葉原を楽しんでいる。ここはきっと、そういう街なんだろうな。

 中央通りを曲がって『AKIBAカルチャーズZONE』っていう建物の前に差し掛かったところで

「カフェ・ミルキーウェイですにゃ。本日営業中ですにゃよ♡」

 女の子にチラシを渡された。それを何気なく受け取る俺。

「ご主人様ぁ、喉が渇いてないですかにゃ? それともお腹がペコリンだったりしますかにゃ?」

 ……にゃ、んですと?

 チラシを渡してきた女の子は、フリフリの服を着て満面の笑みを浮かべている。ピンクのワンピースに白いエプロンとニーソックス、頭にもフリフリのヘアバンドを付けた、ちょっと普通じゃない格好。

 いや、そんなことよりも……

 すんごい美少女! もう、めっちゃカワイイ!

 語彙力がない? すまんね。

 それじゃあひとつ付け加えるなら、ここまで秋葉原の街で見てきたどんなポスターや看板の女の子よりもカワイイ! っていう表現で分かってもらえるんじゃないかな。

 そんな女の子が誘ってくるカフェって……

「えっと、それってどういうカフェですか?」

 カフェといえば、つまり喫茶店だよね。

 でも、この子の格好が普通じゃない。もしかして、あんな事やこんな事が「サービスサービスぅ」な大人のカフェですか?

 俺氏、心の準備も身体の準備も整っておりませぬが。

「メイドカフェですにゃよ♡ 今ならまったりなので、ゆっくりできますにゃ」

 メ、メイドカフェ!?

 噂には聞いたことがある。

 メイドになりきった店員が、客を「主人」に見立てて給仕などのサービスを行う喫茶空間(ウィキペディアより抜粋)だよな――ゴクリ。

 つまり、カワイイ女の子メイドさんとお喋りしながらドリンクを頂いて、オムライスにハートマークをデコレーションしてもらって、ついで「あ~ん」とかしてもらえるカフェだよな――ゴクリ!

 ご主人様と呼ばれて尽くしてもらって、想像しただけで生唾ゴクリなハーレムカフェだよねっ!

「ご主人様、よく知ってるにゃ♡ もしかして他のお店で常連さんかにゃ?」

「いえ、初めてです!」

 俺は今まで、メイドカフェに行ったことがない。ネットや雑誌で見たことがあるだけだ。だいたい、俺の街にメイドカフェなんてないからな。

 でも、興味はあるよ? 健全な男子諸君ならわかるだろう? みんな恥ずかしいから敬遠しているだけであって、人生で一度は試してみたいことランキングあったら、必ずトップ5には入ってくると思うんだ。

 そんな持論を脳内で繰り広げていると、メイド服の女の子は俺の顔をジッと見て

「今日は暑いですにゃ。ずっと歩きっぱなしだと、水分補給も必要ですにゃよ?」

 澄んだ瞳を覗かせた。下から見つめるように、イタズラっぽく、俺の額に流れる汗を見ているようだった。

 たしかに今日は暑いな。夏も終わる九月の週末だが、日差しはまだまだ強い。午前中からずっと秋葉原の街を歩き続けていた俺は、さすがに汗びっしょりだ。

 この子はそんな俺の顔を見て、「少し休んで、喉を潤してはいかが?」と言ってるんだろう。

 優しいし、気が利くんだな。メイドさんて。

「そうですね。そういえば喉が渇いてます」

「ですにゃよね! わたしもずっと立ちっぱなしで喉がカラカラですにゃ」

 よく見ると、この子も顔にうっすらと汗をかいて疲れた顔をしている。そりゃあ、そんな格好で炎天下にいたら大変だろう。その衣装も暑そうだし、日陰もないし。

 だから俺は考えたんだ。この子がここでチラシを配っているのは、お客さんが来ないからなんだろうって。こんな優しくて気が利いて、すんごい美少女が暑さで倒れてしまう前に協力してあげよう、ってね。

 決して(よこしま)な考えがあるわけじゃないぞ? 俺の喉が渇いているのは本当だし、何よりこの子を放ってはおけない。そりゃ、メイドカフェに興味があるのは事実だが。

「じゃあ、行ってみますんでお願いします」

「ありがとうございますにゃ! ご案内しますにゃ♡」

 美少女はパァっと明るい顔をして喜んでくれた。

 良かった良かった、これで俺はひとりの少女を救ったわけだ。ついでに俺の喉も潤えば、一石二鳥。あくまで俺の願望は二の次だからな。

 ルンルンと歩く少女についていくと、通りの隅に「ミルキーウェイ」という看板があった。寂れた佇まいの雑居ビルの、地下1階。

 なんか、暗いんですけど。

 地下へと降りる階段に照明はないし、お店の看板も内側に寄せてあって、敢えて目立たないように置かれているような。

 例えるなら、秋葉原の街にある小さな闇――ってのは言い過ぎかな。

 メイドカフェといえば、もっと明るいイメージがあるんだけどな。行ったことないから偉そうに言えないけど、これじゃまるで異世界への入り口みたいだよ。

 俺は少しだけ不安を覚えて、先に階段を下りていく女の子に聞いてみた。

「ね、ねえ。ここって本当にメイドカフェなんだよね?」

「はいですにゃ。ちゃんとご主人様にお給仕するメイドカフェですにゃよ。ただ……」

 女の子は俺に背を向けたまま立ち止まると、そこで言葉を止めた。そして続けて発した声に、俺は戦慄した。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 枯れた女の声。しゃがれた怒声。さっきまでの美少女とはまるで別人の声。

 俺はビクっと固まった。なんだ? 一体どうしたんだ?

 さっきまでの「にゃ♡」っていう語尾はどうしちゃったんだよ!?

 そうして女の子は、入口のドアを手前に引いた。

 

 まさか俺は、とんでもない所に連れてこられてしまったのか!?

 

※メイドカフェには、世界観を作るための専門用語があります。

 まったり・・・お店が空いてますよ、という意味

 ご主人様・・・メイドカフェに来店する男性客のこと

 

第二幕 お帰りなさいませにゃ、ご主人様

 

「お帰りなさいませ、ご主人様♡」

 扉の中から、メイド服を着た女の子たちが一斉にお出迎えをしてくれた。全部で十人はいるだろうか。両側に整列して、入り口から奥に向かってズラッと並んでいる。

「これは……普通に、メイドカフェ?」

 鬼が出るか蛇が出るかと身体を強張らせていた俺は、一瞬で脱力してしまった。

 だって、さっきの

 ――ここは普通のメイドカフェとは違うのだ。覚悟はいいか、人間よ!

 って言葉、明らかに普通じゃなかったんだ。カワイイ女の子の声が突然、悪魔のような声になってたんだぞ?

 それが、扉を開けてみたらどうよ。

 どの子をみてもアイドル並みにカワイイ子たちが、全員メイド服で俺(ご主人様)をお迎えしてくれている。

「さあご主人様、奥にどうぞにゃ♡」

 にゃ♡の子が、整列している女の子たちの間を抜けるように俺の手を引いていく。声もカワイイ女の子に戻ってるし。

「お席はこちらでよろしいですかにゃ?」

「えっと、はい」

 俺は言われるままに席に着くと、改めて店の中を見渡した。

 明るい店内はピンクやイエローといった萌え色で彩られていて、甘い香りが漂っている。甘美な空間に勢揃いしているメイドさんたち。そこら中にハートマークが浮いているように見えるのは、気のせいだろうか。

 雑居ビルの暗い雰囲気とはまるで別世界だ。

 ただひとつ気になるとしたら、俺の他には誰もお客さんらしき人がいないこと。この店、流行ってないのか?

「ご主人様、今日も帰ってきてくれてありがとにゃ」

 にゃ♡の子はスカートの裾を持ち上げて軽くお辞儀をする。なるほど、これがメイド式のご挨拶なのか。

 てか、俺はここに初めて来たから「今日も帰ってきてくれて」っていうのは違う気がするのだが。まあそれも、メイドカフェのしきたりみたいなものなんだろう。

「本日、ご主人様のお給仕をさせていただくドラコにゃんですにゃ。よろしくお願いしますにゃ♡」

 ド、ドラコにゃんさんですか……。それってハンドルネーム? 源氏名? 変わったお名前ですにゃね。

 いかん、言葉が伝染ってる。この子「にゃ」が多いんだよなぁ、そりゃ伝染るって。

「まずはテーブルチャージで600ミルキーいただくにゃよ」

「テーブルチャージ? ああ、席料のことね」

 俺はテーブルにあるメニュー表の一番上を見た。ワンドリンク付きで600ミルキー。

 ……てか、ミルキーって何?

「お支払いのことだにゃ。ここではお金の単位をミルキーで言うのにゃ」

 ドラコにゃんが横から顔を寄せてきて、コソコソと耳打ちした。なるほど、萌え世界ならではの通貨単位ですね。たしかに甘くてとろけそうな響きです。

 耳元にかかるドラコにゃんの息づかいも、甘くてとろけそうです。

 なんだか誘惑されているような、変な気分になってくる。眠気を誘うような、魅惑の甘い香りを残してドラコにゃんは立ち上がると

「それではドリンクを選んでほしいにゃ」

 と言ってドリンクメニューを渡してきた。そういえば喉が渇いていたんだった。雰囲気に押されて忘れてたけど。

 メニュー表にはアイスコーヒーやオレンジジュースなど、いたってシンプルなドリンクの名前が書かれている……と思ったら、下の方には何やら謎のメニューが。写真が載ってないから中身が分からんが……

『バハムートウォーター』って何!?

「それは海洋深層水のことにゃ」

「ミネラルウォーターかよ!」

 たしかバハムートって魚のドラゴンだったかな。海にちなんで海洋深層水ってことね。ネーミングが無駄にカッコイイな。

 じゃあ、この『黒竜の王冠』てのは?

「それはコーラですにゃ。瓶のコーラをお出ししますにゃ」

 弾ける炭酸が昇り竜のように駆け上がる、つまり王冠つきの瓶コーラかよ。

「だからネーミングが無駄にカッコイイっての!」

 ってことは、この『神龍に願いを』ってのはもしかして……

「ギャルのパンティが付いてくるとか?」

「ご主人様、えちえちですよ~! それはタピオカミルクにゃ♡」

 なるほど、タピオカをドラゴンボールに見立てたドリンクか。でもまさか、タピオカが7粒しか入ってない――とかないよね。

 それにしても、どうしてこうドラゴンにちなんだネーミングが多いんだ?

「これはわたしのメニュー表ですにゃ。だからわたしの属性メニューが書いてあるんだにゃ」

「属性……?」

「はいにゃ。わたしはドラゴンだからにゃ♡」

 ドラコにゃんはそう言って、ニカっと可愛らしい八重歯を見せた。

 

 ……にゃんですと!?

 

※メイドカフェには、世界観を作るための専門用語があります。

 お帰りなさいませ、ご主人様・・・お客が来店時のご挨拶

 お給仕・・・食べ物や飲み物を運んでお世話をすること

 えちえち・・・ご主人様、えっちですよ♡

 

第三幕 ご主人様、火炎のブレスで萌え燃えだにゃん

 

 なるほど、ドラゴンね。ドラゴン……

「今、ドラゴンて言った!?」

「はいですにゃ! 暗黒魔界の王、レッドドラゴンですにゃよ♡」

「へ、へぇ……」

 俺は片頬を歪めて相槌をうった。ちょっと何を言ってるのか分からないんですけど。

「あ~、ご主人様。信じてないにゃんね?」

 ドラコにゃんがプクっとふくれっ面で顔を寄せてくる。近い、近いよ! 鼻と鼻がくっつきそうなくらいに近寄られて、俺は思わずのけぞってしまった。

「だ、だってほら……ドラゴンなんて空想の生き物だろ? あ、そうか。メイドさんたちの中でそういう設定ってことなんだ」

「まあ、信じられないのも仕方ないにゃんね。それじゃあ、これならどうにゃ?」

 ドラコにゃんは緑色の瞳を妖しく光らせ、薄く柔らかそうな唇をまるで口づけでもするように尖らせると……

 ボウっと小さな炎を吐いた!

「うわっちちち!!」

 真っ赤な炎が目の前に広がり、髪の毛が焦げる匂いが漂う。って、俺の髪の毛が燃えてる!?

 炎って言っても、ライターの火が出るような炎じゃないぞ? 灯油に引火したみたいに濃くて重たい炎が、ゴオって音を出して燃え上がるんだぞ?

 俺の毛先を焦がした炎はすぐに消え、薄い煙が立ち上り、しかしそれもすぐに見えなくなった。

「レッドドラゴンは炎の竜だにゃ。もっと大きな火炎のブレスも吐けるにゃんけど……」

「待て待て待て! もっと大きなって、今のがどのくらいなんだよ!」

「ん~……1%も出してないにゃ」

「1%ってことは、100倍の火炎ブレス!? ダメ、絶対ダメ! そんなの吐き出したら俺が燃えちゃう、むしろ店が燃えちゃう! 秋葉原が燃えちゃう!」

 この店は消防法とかどうなってるんだよ! 可燃物の取り扱いには注意が必要でしょ?

 たしかにドラコにゃんは萌える要素満点だが、燃える要素は必要ないって!

「大丈夫だにゃ。あんまり派手にやると妖精さんに怒られちゃうから、ここではやらないにゃ♡」

 暗黒魔界でなら100%で火炎のブレスを吐きまくってるのか。カワイイ顔してとんでもないメイドさんだな。

 てことは、ドラコにゃんは本当にドラゴンなのか。

「そうだにゃ♡ ここで働くメイドさんたちはみんな、異世界から出稼ぎに来ているんだにゃ」

 異世界から出稼ぎって……ファンタジーな世界観が「出稼ぎ」っていうワードで一気に生活感いっぱいの苦労話に聞こえてしまうのだが。

「異世界も今は生活が厳しいにゃ。ブームに乗ってたくさんの異世界ができたにゃんけど、忘れ去られたキャラたちはこうして出稼ぎに来ないと仕事がないにゃんよ」

「じゃあ、他のメイドさんたちもみんな異世界から来たのか?」

「はいにゃ。異世界と言ってもいろんな世界があるにゃんから、魔法少女とかゾンビとか堕天使とか、みんな種族はバラバラにゃ」

 まさに異世界大集合って感じだな。

 俺は、ドラコにゃんの話をすっかり信じてしまった。

 アホな話だと思うじゃん?

 でもさ、あの火炎のブレスは手品とかイリュージョンとは違うって、すぐに分かったんだよ。

 だってドラコにゃんは、俺の目の前で何の準備もなく突然炎を吐いたんだぜ?

 普通は口に何か含んで、火種を持ってやるモンだよな。でもドラコにゃんは種も仕掛けもないままに炎を吐き出したんだ。これがドラゴンじゃなかったら、逆に恐いよ。

 いいじゃん。この子がドラゴンでも、異世界の住人が出稼ぎに来てても、ここがそういう店だと思えばオールオッケーよ。

 あれ、俺の考え……何か変だな。

 さっきドラコにゃんの甘い息を吸ってから、疑う気持ちがなくなってる気がする。この子の言ってることを信じてあげたくなってる。

 あの甘い息も、レッドドラゴンが吐いた誘惑の息なのかな。

 

 ――てか、この子はドラゴンなのにどうして「にゃ♡」を付けて喋るんだろう……?

 

※メイドカフェには、世界観を作るための専門用語があります。

 妖精さん・・・カフェの奥にいる店員さん

 

第四幕 ご主人様、美味しくな~れのおまじないにゃ

 

「それではご主人様、ドリンクをお持ちしますにゃ。どれがいいか選んでほしいにゃ♡」

「お、そうだった。せっかくだから頂かないとな」

 ここまで俺は何も飲まず、注文すらしていない。そうして20分は経ってしまっただろうか。カフェに来たはずが飲食に辿り着けてないけど、こうやってお喋りをするのもメイドカフェの楽しみ方ってことか。

 でもワンドリンクで600ミルキーだからな、何か注文しないとだ。

 どうせならドラコにゃんのメニューを選ぶべきだな。コーヒーやオレンジジュースはどこでも飲める。オリジナルメニューでいってみよう。

「じゃあ、この『赤竜の宝珠』ってのにしようかな。赤竜ってレッドドラゴンだろ? これが一番ドラコにゃんぽいもんな」

「はいですにゃ! しばらくお待ちくださいにゃ、ご主人様♡」

 俺はいくつかあるオリジナルメニューの中から、この場に相応しいと思えるものを選んだ。初めてメイドカフェに案内してくれたドラコにゃんに合わせたって感じかな。

 こうやって雰囲気を合わせるの、大事だろ?

 それから少しして、ドラコにゃんはトレイに何かを乗せて持ってきた。

「お待たせしましたにゃ! 『赤竜の宝珠』ですにゃ♡」

 赤い液体に、赤い果実が……透明パックの中に入ってる――だと? そして傍らには白いストロー。しかも小さいヤツ。それを丁寧にテーブルに置く。

 これってもしかして……

「すもも漬け!?」

 駄菓子屋で売ってるヤツじゃん! スモモを酢に漬けて汁を飲むアレだよね。スモモも食べられるヤツだよね!?

 俺は慌ててメニュー表を見返してみた。

 赤竜の宝珠、300ミルキー。

 明らかに安い。アイスコーヒーが500ミルキー、オレンジジュースが600ミルキー。他のドリンクの半額程度であるこのメニュー、普通じゃないと疑うべきだったか?

「別名、レッドドラゴンオーブですにゃ♡」

 レッドドラゴンオーブ!

 たしかに、赤い液体の中に真紅のオーブが沈んでいるのように見えるのが幻想的というか、神秘的というか。

 でも……

「思いっきり、『すもも漬け』って書いてあるし!」

 他のオリジナルメニューからして、地雷っぽいモノは出てこないだろうと安心しちまった。

 ドリンクを頼んだのに、まさかの駄菓子だぞ!?

 いや、ドリンクに間違いはないのだが、これは想像の斜め上をいってる!

 俺は開いた口が塞がらないまま『すもも漬け』を凝視していると

「ご主人様、これは完成形ではないのですにゃよ?」

 ドラコにゃんの目がキラリと輝いた。

 待て。待ってくれ。『レッドドラゴンオーブ』というネーミングで『すもも漬け』を出すセンスは、時代を先取りしすぎている。いや、昔の駄菓子だから時代を逆行してるのか?

 どっちにしても、この破壊力に俺の脳ミソは追いついてないぞ。ここからさらに何かを施そうというのか?

「おまじないにゃ♡」

 ドラコにゃんはすもも漬けにストローを刺すと、何やら呪文のように唱え始めた。

「美味しくな~れ、美味しくな~れ……」

 そうして両手でハートマークを作ると、まるで子猫のような顔で小さい八重歯を見せる。

「にゃんにゃんにゃん♡」

 最後はパチンと片目でウィンクして

「これで完成にゃ!」

 召し上がれと言わんばかりに両手を広げてきた。

 その『おまじない』を見た俺は、少し顔が赤くなっていたと思う。可憐な仕草と愛らしい表情で、恥ずかしい呪文を一生懸命に唱えているドラコにゃんに見蕩れてしまった。

 胸の奥がキュンとして、心がときめく。

 なんだろう、これ。

 俺、この子に惹かれている?

 これは、恋……なのか?

 俺は頭がボーッとしている状態で、すもも漬けを手に取った。

 おまじないのかかった『赤竜の宝珠』こと『レッドドラゴンオーブ』は、妖しい色をしている。赤い液体が気分を高揚させ、まるで恋心に火をつけるようだ。

 ストローに口を付け、ゴクリとひと口飲む。

「…………酸っぱ!」

 口の中に広がる、酢の酸っぱさ。きっと俺は「*」こんな口の形をしてるんだろうな。

 でも、酸っぱさの中にも、ほのかな甘みがあるような気がした。

 

 恋は――甘酸っぱいんだな。

 

※メイドカフェには、世界観を作るための専門用語があります。

 おまじない・・・ドリンクなどを美味しくするおまじない

 

第五幕 ご主人様、ゲームをしましょうにゃ

 

 俺がスペシャルドリンク『レッドドラゴンオーブ』を飲み干すと(もちろん果肉も全部食べた)、ドラコにゃんが

「それじゃあご主人様、ゲームをするにゃ♡」

 と言ってきた。

「ゲーム?」

「はいにゃ! 今日はお店がまったりなので、みんなでやるにゃ♡」

「お、それは楽しそうだな。やろうやろう」

 まったり――つまりお店が空いてるってことだな。

 空いてるというか、俺の他にお客らしき人は誰もいない。広い店内でポツンと俺だけがお給仕されているのは寂しい気もするが、周りに気を遣わなくていいのは気楽で助かる。

 ……てかこの店、ホントに流行ってないのか?

 そんな俺の心配をよそに、ドラコにゃんは大声で仲間を呼び集める。

「マギナ! 寿里(じゅり)! 一緒にゲームをやるにゃよ!」

 すると店の奥から、ふたりのメイドさんが寄ってきた。

 着ている服はドラコにゃんと同じメイド服だが、ひとりは全体的に紫色がかって見える。これは、服の色が紫なんじゃない。陽炎のように紫色の霧を纏っているような、オーラを発しているような……

「マギナは魔法少女にゃ。ほら、ご主人様にもマギナの魔力が見えるにゃね?」

「ま、魔法少女!? その紫色は魔力の光なのか!?」

 そういえばドラコにゃんが言ってたな。このメイドカフェには異世界からたくさんの種族が出稼ぎに来ているって。

 なるほど、魔法少女も魔女と戦わずにメイドさんになるご時世なのか。

 世も末ならぬ、異世界も末だな。

「ふん……アタシはドラコにゃんに呼ばれたから来ただけで、ご主人様のためにゲームをするんじゃないんだからねっ!」

 なんだ? いきなり怒られてしまったぞ?

 でもこういうキャラ、嫌いじゃない。

 そしてもうひとりの子は――なんかすごく顔色が悪いんですけど。顔が青白くて、具合が悪そうな感じ。それに、右目に眼帯をしてるのは怪我してるんじゃないか?

寿里(じゅり)はゾンビ娘だにゃ。眼帯は寿里のアイテムだから、気にしなくていいにゃよ」

 ゾンビかよ!

 いくら出稼ぎっても、死人までもが稼ぎに出て来るなんて、本当に異世界も末だな。

「ボクは死人じゃないんだな。生ける屍なんだな」

「それって死んでるだろ!」

 スマンスマン、思わず突っ込んでしまった。このメイドカフェは何でもアリだ。寛容な心で受け止めよう。ゾンビだろうがボクっ娘だろうが一向に構わない。

「で? ゲームって何をするのよ。まさかドラコにゃんのアレじゃないでしょうね?」

 マギナが嫌そうに腕組みをする。

「その、まさかにゃ♡」

「嫌よ! アレは防御するのに魔力を使って、マジカルジェムが濁っちゃうんだから!」

「ボクも炎に弱いから、命がいくつあっても足りないだな」

 おいおい、一体どんなゲームなんだよ。防御するのに魔力が必要? ゾンビの命がいくつあっても足りない? だいたいゾンビはすでに命がないだろ。

「二人とも協力してほしいにゃ。せっかく新規のご主人様が来てくれたにゃんよ? 楽しくゲームをして、常連さんになってもらわにゃないと」

 逃げ出そうとするマギナと寿里を掴み止めるドラコにゃん。二人とも、明らかに嫌がってますよ?

「なあ、ゲームってどんなことするんだよ。ひょっとして危ないゲームなのか?」

「危なくないにゃ。スリルがあって楽しいにゃよ♡」

「だって二人とも嫌そうだぞ?」

 マギナと寿里はこの場を離れようとジタバタしている。が、ドラコにゃんが服を掴んで離さない。いや、そこまで無理にやらんでも……

「二人とも聞くにゃ。ご主人様が次に来てくれた時には、わたしのお給仕を譲るにゃ。これでどうにゃ?」

 ドラコにゃんの提案で、二人はピタっと動きを止めた。

「マギナも寿里も、携帯の支払いとアパート代が滞ってるにゃよね。お給仕の仕事がないと、携帯が止まってアパートも追い出されちゃうにゃよ?」

 な、なんという生活感丸出しの会話!

 出稼ぎ労働者にお給金というキラーワード!

 これがメイドさんたちの会話でいいのか!?

「し、しょうがないわね。別にアンタのご主人様のためじゃなくて、家賃の催促がウザいからやってやるんだからね!」

「ボクもツイッターが出来なくなるのは困るんだな。仕方ないからやってあげるんだな」

 お給金で即決かよ!

 やはり出稼ぎ労働者にマネーをチラつかせるのは強い。

 結局4人でやることになったわけだが、肝心のゲーム内容について俺はまったく理解できていない。スリルあるゲームとか言っていたが、それを教えてもらわなきゃ始まらない。

「で? どんなゲームなんだ?」

 という俺の問いかけに、ドラコにゃんは人差し指をビシっと立ててこう言った。

「黒()()危機一発にゃ!」

 

 黒『コゲ』危機一発って何だよ!?

 黒コゲ……

 炎……

 あ、なんとなく想像できた。

 

 

第六幕 ご主人様、生き様を見せる時にゃ

 

 ドラコにゃんが持ってきたのは『元祖・黒ひげ危機一発』というおもちゃ。樽に短剣を刺して、黒ひげが飛び出したら負けってやつな。

 しかし、肝心の黒ひげ海賊が乗ってない。

 その代わりに、樽の上に顔を出しているのは竜の人形。口を大きく開けて、威嚇するように鎮座している。今にも火炎のブレスを吐いてきそうな感じだ。

「一応、聞いておこうかな。これはどうやって遊ぶモノかを」

 俺は嫌な想像を思い浮かべながら、ドラコにゃんに聞いてみた。

 ……遊び方とオチ、なんとなく予想はできてるけどな。

「簡単だにゃ。樽に短剣を刺して、竜に炎を吐かれたら負けにゃ♡」

「やはりそうかーーーー!」

 黒ひげが飛び出すおもちゃを魔改造してるじゃねーか! 竜に炎を吐かれて黒コゲになるって……スリルがあって楽しいどころの話じゃねえ! ゾンビ様も命を惜しむほどの危険な遊びだよ!

 しかも炎を吐くって、まさか……

「ちょっと待つにゃ。わたしの火炎のブレスを仕込むにゃ!」

 ドラコにゃんは目を瞑ると、薄くて柔らかそうな唇を尖らせ『黒コゲ危機一発』を手に取った。そして薄桃色の唇で竜の口に優しく口づけると

 ゴゴオッ!

 と音を立てて、竜の人形に火炎のブレスを吹き込んだ。

「待て待て待て! 今の音、さっきよりもだいぶ迫力があったぞ? 一体どのくらいの炎を吹き込んだんだよ!?」

「ん~……20%くらいにゃ♡」

 死んじゃう! それ死んじゃうヤツ!

「ずいぶんと弱々しい炎ね。その程度なら魔力を使わなくても平気だわ」

「ドラコにゃん、今日は手加減してくれるんだな」

 マギナも寿里も、安心したような顔をしている。あれで手加減? いつもはどんな灼熱の炎なんだよ!?

「ご主人様は初めてだからにゃ。最初は手加減しておくにゃ♡」

 そう言ってドラコにゃんは竜の頭をクルクルと回転させた。これでどこかの差込口に「アタリ」がセットされたわけだ。

 こうして『黒コゲ危機一発』という名のデスゲームが、テーブルの中央にスタンバイされた。

「さあ、始めるにゃよ♡」

 キュピーンと目を光らせ、対面のイスに腰掛けるドラコにゃん。いつの間にか、マギナと寿里も椅子を持って俺の両側に座っている。

 二人ともやる気マンマンじゃないですかやだー!

 しかし、ここで俺が断固拒否したら楽しい場がシラケてしまうだろう。せっかくドラコにゃんが俺を楽しませようと用意してくれたゲーム、マギナや寿里も一緒にやると言っているんだ。ここで逃げたら、俺はただのチキンヤローになっちまう。

 覚悟を決めるしかない、か。

「しゃーねー、こうなったら俺の生き様を見せてやるぜ!」

 あの炎を喰らったら『生きた様』を見せられなそうだけどな。

 でも大丈夫、確率は4分の1だ。

 それにドラコにゃんはレッドドラゴンだから、自分の炎には耐性があるんだろう。マギナは魔力で防御できるって言ってたし、寿里はゾンビだから死ぬことはないはず。

 つまり、俺が回避できればいいわけだ。

 このデスゲーム、切り抜けてやるぜ!

 俺はおもちゃの短剣をひとつ取ると、RPGゲームの勇者のようにそれを高く掲げた。

 俺の胸の中では今、旅立ちの曲が流れている。

 これから火炎のブレスを吐き出すラスボスに挑むわけだ。

 当然、俺のレベルは1だし、装備だってこの短剣とTシャツ&ジーパンだけ。ドラゴンメイルとか水鏡(みかがみ)の盾のような、炎に耐性のある防具を装備しているわけじゃない。

 ましてや、フバーハみたいな炎のダメージを半減する魔法が使えるわけでもない。

 しかし、俺には勇気がある。それを見守ってくれるメイドさんが3人も付いている。今こそ勇気を力に変えて、この世界に光を取り戻す!

 行こう。そして伝説へ……だ。

「ご主人様、カッコイイにゃ♡」

「ふん……少しは度胸があるようね」

「ボクが死なないように祈ってあげるんだな」

 メイドさんたちと心もひとつになった。これで

「もう何も恐くない!」

 俺は先頭をきって『黒コゲ危機一発』を引き寄せた。

 樽の上に鎮座する竜が、鋭い目で見つめてくる。大きく開いた口からは、微かに赤い炎が漏れているのが分かる。

「へーき、へーき。差込口は30か所くらいあるんだ。いきなり当たるなんてことはない……はず!」

 俺は少しだけ震える手で、短剣をグイっと差し込んだ。

 

 ――でも待てよ?

 誰かが「アタリ」を引いた時点で、この店は灼熱の炎に巻かれるんじゃ……?

 

 

第七幕 ご主人様、スリルはお好きかにゃ

 

 俺は小指サイズほどのドラゴンキラー(おもちゃの短剣)を、差込口にブッ刺した。

 固唾を飲んで見守るメイドさんたち。

 樽の竜は、静かに俺を見つめている。という事は――

 ……………………セーフ。

「おっしゃああああぁぁぁぁ!」

 一刀目を無事に切り抜けて、雄たけびをあげる俺。

「ご主人様、盛り上がってるにゃ♡」

「これが盛り上がらずにいられるかってんだ!」

 男ってのはな、時にくだらない事にアツくなるモンなんだ。

 よし、次は誰だ? ガンガンいこうぜ!

「今度はボクの番なんだな」

 続いて寿里が短剣を差し込む。これもセーフ。

「次はわたしの番だにゃ♡」

 テーブルを時計回りに『黒コゲ危機一発』が渡されていく。ドラコにゃんも短剣を差し込むが……セーフ。

「次はアタシね」

 マギナも同じように短剣を差し込むが、これも樽の竜が炎を吐くことはなかった。

 そして2周目、3周目と、俺たちはどんどん短剣を差し込み『黒コゲ危機一発』を順々に手渡していく。差込口はどんどん埋まっていき、ついに残り5か所となったところで俺のターンになった。

「これを切り抜けたら、俺は『負け』じゃない……ってことだな」

 残り5か所を4人で刺すんだ。最後の1か所が残ったら「アタリ」の場所が確定するんだから、引き分けってことだよな。

 俺は短剣を持つと、それを額に当てて祈りを込めた。

 ここを通せば俺の負けはない。

 いや、むしろ全員で黒コゲを回避しようじゃないか。最後に「アタリ」だけを残して終えるなんて、凄い確率だぞ。

 ここにきて俺は「みんなで切り抜ける」というハッピーエンドを願い始めていた。

 そうだよ。敗者が黒コゲになるなんて、そんな結末は誰も望んじゃいない。RPGゲームだって、ラスボスが「悪」とは限らないんだ。みんな「自分の正義」を貫いているだけなんだ。

 俺は短剣を差込口に当てると、力強く押し込んだ。

 樽の竜は、静かに俺を見つめている。

 ……………………セーフ!

「よし、このままみんなで切り抜けようぜ! みんなでハッピーエンドを迎えるんだ」

 俺の胸の中では今、RPGゲームの壮大なエンディングテーマが流れようとしている。いや、すでにイントロが流れ始めている。

「ご主人様、何を言ってるにゃ? 短剣は最後まで刺すにゃよ?」

「誰かが火炎のブレスを浴びなきゃ黒コゲにならないじゃない」

「黒コゲを回避するから、危機一発なんだな」

 メイドさんたちは、さも当然のように残り4本の短剣を振り分けた。寿里に1本、ドラコにゃんに1本、マギナに1本。

 そして……俺に1本。

「え? ドユコト?」

 目を点にしている俺の手から、寿里は『黒コゲ危機一発』を引き寄せると、躊躇いもなく短剣を差し込む。

 ――炎は吐かれない。

「これでボクは勝ちなんだな」

 と言って次のドラコにゃんに手渡す。

 ドラコにゃんは笑顔のまま、これまた躊躇いもなく短剣を差し込む。

 が――炎は吐かれない。

「にゃは♡」

 と言って次のマギナに手渡す。

「ちょっと……待って待って待って!」

 俺は今にも短剣を刺してしまいそうなマギナを必死で制した。

 なんか超展開だよ!? 俺が望んだハッピーエンドはどうなるの? みんなで黒コゲを回避して「良かったね」っていうエンディングにしようよ?

 俺の胸の中で奏でられていた壮大なエンディングテーマは、いつの間にか「ビッグブリッヂの死闘」のような騒がしい曲に変わっていた。今にも駆け逃げるような、ピンチの曲。

 ……これで差込口は残り2か所、短剣はマギナに1本、俺に1本。

 マギナが「アタリ」を刺さなかったら、最後は俺が「アタリ」と分かってる「アタリ」を刺すってこと?

「ご主人様、大丈夫だにゃ♡ マギナは空気を読める子にゃ。ここ一番というところで、キッチリ決めてくれるにゃよ」

 そう言ってドラコにゃんはマギナを見た。マギナもマギナで「フフッ」と薄笑いを浮かべる。

「死んじゃう! 俺、死んじゃうよ!」

 マギナは短剣を差込口に当てると、そこで一旦手を止めた。

 もしマギナがセーフなら、俺は20倍の火炎ブレスで黒コゲになってしまうんだ。

 マギナがチラっと俺を見る。

 すると何を思ったのか、短剣を一度引き抜いてもう1か所の差込口に入れ直した。

 ――まさか、メイドさんたちには「アタリ」の場所が分かるんじゃ……!?

 マギナの目は「初めてのゲームで黒コゲになるなんて可哀想に」と言っているようだった。

 やめて! そんな目で俺を見ないで!

 マギナは紫色の瞳を輝かせ、グイっと短剣を押し込んだ。

 その瞬間――

 ドゴォォォ!

 という轟音を立てて、竜の口から火炎のブレスが噴き出した。

 

 え? ドユコト?

 

 

第八幕 ご主人様、危機一発だにゃ

 

 竜の口から、激しい炎が噴き出した。

 マギナが火の渦に飲み込まれる――ところまでしか、俺には見えなかった。

 なにせ20倍の火炎のブレスだ。噴き出した瞬間に店の中は炎に包まれ、俺は椅子から吹っ飛ばされてしまった。

「うひゃぁぁぁ!」

 俺は情けない声を出してうずくまり、頭を抱えて身を守る。身体を焼くような、灼熱の空気が駆け抜けていくのが分かる。

 しかしそれもすぐに収まり、恐る恐る顔を上げると……

「「黒コゲ危機一発~!」」

 ドラコにゃんと寿里が立ち上がり、満面の笑みでハイタッチを交わしていた。

 やはりドラコにゃんは炎に耐性があるんだろう。艶のある髪の毛がまったく乱れる様子もなく、メイド服も綺麗なまま。

 そしてゾンビ娘の寿里は、短い髪の毛がボサっとなって、真っ白な眼帯には焦げ跡が残っている。顔や腕は……もともと身体が腐った死体――ではなく生ける屍だから区別がつかないな。

 何よりも、まったくノーダメージだろっていうくらいにケロっとしていた。さすがゾンビ、生ける屍はダテじゃない。命がいくつあっても足りないと言っていたが、足りなくなることはないだろう。

 いや、そんなことよりもマギナは?

 あの火炎のブレスをまともに浴びてしまったマギナは大丈夫なのか!?

 見るとそこには、真っ黒のススだらけになったマギナが座っていた。

 分かる? まるでマンガで黒コゲになった時のアレだよ。

 プスプスと効果音を立てて、長い髪の毛をボサボサにして、真っ黒になった無残なマギナが……

「ちょっとドラコにゃん! これのどこが20%なのよ!?」

 勢いよく立ち上がり、元気よくクレームをつけていた。

「アンタが20%って言うから魔力を使わなかったのに、黒コゲになっちゃったじゃない!」

「ごめんごめんにゃ♡ 20%を2回吹きこんじゃったにゃ。でもマギナは魔法で治せるから大丈夫にゃよね」

「ま、まあ……それはそうだけど」

 マギナは懐から宝石のようなものを取り出すと、ブツブツと呪文を唱えた。

 するとマギナの身体から紫色の光が放射され、黒コゲだった姿は一瞬で元どおりに回復した。マギナは何事もなかったかのように着席する。

 それを見たドラコにゃんはニコっと笑い

「それに……ご主人様も楽しんでもらえたにゃ♡」

 亀のように床に伏せている俺のそばに来ると、片手を差し出した。

 ドラコにゃんに手を引かれ、俺はようやく起き上がる。あんな凄まじい炎を吐くドラコにゃんの手は、ドラゴンとは思えないほど小さくて柔らかかった。

「ご主人様、怪我はしてないかにゃ?」

「え? あ、ああ……髪の毛と服が焦げたような気がするけど」

 しかし焦げたような臭いはしないし、あれだけの火炎が充満したのにどこにも焼け跡は見つからない。一体どうして?

「マギナの魔法は治癒の力があるからにゃん♡ ご主人様の焦げた髪の毛も服も、さっきの呪文で元どおりにゃ」

 マギナの魔法が、俺の焼け跡も治してくれた?

 さっきの呪文は自分だけを癒したんじゃないのか。そういえば寿里の髪や眼帯も綺麗な状態に戻っている。

 もしかして、それが出来るからマギナをゲームに誘ったのか?

 だとしたら、マギナが最後に短剣を刺した場所。あれはわざとなんじゃ。

「ふん……別にご主人様のためにやったんじゃないんだからね」

 マギナはプイっと顔を逸らしてしまった。俺が感づいたのを察したのか――火炎のブレスで焼けた跡は消えたはずなのに、少しだけ頬が赤かったような気がした。

 そんなメイドさんたちを見て、俺は気付いてしまったんだ。

 ドラコにゃんは炎に耐性があって、ゾンビ娘の寿里は不死だから炎が当たっても大丈夫。そしてマギナは魔法少女だから、俺がヤケドをしても魔法で回復できる。

 俺が短剣を刺すごとに一喜一憂して、ドキドキしている姿を見て、最後にマギナが「アタリ」を引く。

 ちゃんと計画していたことなんだ。

 全部、俺を楽しませようとやっていたことだったんだ。

 俺はメイドカフェを甘く見てたかもな。「ご主人様」と呼んでチヤホヤするだけの場所かと思ったら、みんな色々と考えてくれているんだ。

 ドラコにゃんの「にゃ♡」っていうキャラも、寿里のボーっとしたキャラも、マギナのツンデレも、どれひとつ憎めない素敵なメイドさんだよ。

 そんな俺の満足気な顔を見て、ドラコにゃんは意気揚々と言った。

「次は50%でやるにゃ♡」

「もう勘弁してくれ!」

 

 次こそ死人が出るぞ? マヂで!

 

 

第九幕 行ってらっしゃいませにゃ、ご主人様

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

 火炎のブレスで髪の毛を焦がされ、すもも漬けで甘酸っぱい恋の錯覚を覚えて、黒コゲ危機一発でスリルとどんでん返しに驚かされ、気が付けば1時間が過ぎていた。

「ご主人様、時間が来てしまったにゃ」

 時間というのは、どうやら最初に席をチャージした1時間が終わってしまったということらしい。

「ああ、もうそんなに経ったのか」

「うにゃにゃ……残念だけど今日はこれでおしまいにゃ」

 ドラコにゃんは少し寂しそうな顔になった。しかし、こういう料金システムって「延長」とか出来るもんじゃないのか?

「残念にゃけど、ミルキーウェイは延長ができないにゃ。ご主人様には1時間で帰っていただかないといけないにゃよ」

「どうしてだよ。延長料金を払えばいいんじゃないのか?」

 その方がお店だって儲けになるはずだろ?

「それが……」

 ドラコにゃんはなぜか申し訳なさそうに作り笑顔を浮かべ

「実は、ミルキーウェイは異世界に繋がっているお店にゃ。わたしたちはそっち側の住人だから平気にゃけど、ご主人様はあまり長くこっち側にいてしまうと……」

「ど、どうなるんだよ」

「元の世界に戻れなくなってしまうにゃ」

「え……」

 元の世界に、戻れなくなる――?

「そうにゃ。1日に1時間くらいは平気だにゃ。でもそれ以上時間が過ぎてしまうと……ご主人様の出口が消えてしまうにゃよ」

 俺はミルキーウェイの入り口のドアを見た。ここへ来て1時間、ドアはちゃんとそこにある。

 けれど、心なしか色が褪せているような、周りの壁やテーブルや椅子と比べて色が薄くなってきている気がする。

「だから、ミルキーウェイに延長はないにゃ」

「そんな……」

 俺はもっとここに居たかった。ドラコにゃんや寿里やマギナとお喋りして、ゲームをして遊んでいたかった。でも、帰れなくなるわけにはいかない。

 ドラコにゃんは残念そうに俺を見つめている。寿里もマギナもそれを分かっているのか、黙って下を向いている。

「そうか。それじゃあ仕方ないな」

 俺はポケットから財布を取り出すと、ドアの横にあるレジカウンターに足を向けた。俺の後ろからドラコにゃんが続いて、レジを操作する。

「お会計は1200ミルキーにゃ」

「安っす!」

 財布の中から千円札と百円玉を2枚、ぴったりで払う。

「それとご主人様、メンバーズカードを作ってもいいかにゃ?」

「メンバーズカード?」

「もし、ご主人様がまた来てくれるのにゃら、このカードがあれば次は一人でもお店に来れるにゃよ」

 なるほど、最初は案内してもらわないと来られないのか。

「ああ、もちろん来るさ。また遊びに来る」

「あ、ありがとにゃ♡」

 嬉しそうな顔をするドラコにゃんを見て、何だか俺は照れ臭かった。お店の子が「また来てね」というのは当たり前のことだろうけど、心の底から嬉しそうな顔をしているドラコにゃんがとても眩しかった。

「それじゃご主人様、向こうを見るにゃ♡」

 ドラコにゃんに言われて振り向くと、寿里がカメラを構えていた。

 パシャ!

 と振り向きざまに写真を撮られた俺は、フラッシュの眩しさで一瞬目がくらんだ。

「今日のチェキはサービスなんだな」

 ゾンビ娘の寿里が、ヒョイと写真を渡してくる。てかこれ、何も写ってないぞ?

「チェキは写るまで少し時間がかかるのよ。そんなことも知らないの?」

 ツンデレのマギナがツンツンしてくる。

 へぇ、これがチェキか。

 俺はメンバーズカードとチェキを受け取って、3人のメイドさんを見た。

「今日はありがとな。絶対また来るよ、だから次も一緒にゲームしような!」

「待ってるにゃよ♡」

 ドラコにゃんは小さな八重歯を見せて笑みを浮かべる。もしからしたら、今日出会ってから一番ステキな笑顔かもしれない。

「ボクも楽しかったんだな。またいつでも来るといいんだな」

 寿里は表情を変えない。ゾンビだけにムスっとした顔がデフォなのかな。ただ、無表情でもピースしてくれたから、きっと楽しかったのは本当なんだろう。

「ご主人様が来ないとアタシたちのお給金がないんだから、必ずまた来なさいよね!」

 マギナはツンとして目を合わせてこない。俺は「それはデレ言葉なんだろ?」と少し笑ってしまった。

 火炎のブレスを引き受けてくれてありがとな。

 さっきまで何も写っていなかったチェキに、俺とドラコにゃんの姿が見えてきた。驚いてマヌケな顔をしている俺の横に、手でハートマークを作っているドラコにゃん。

 はは……よく見ると、ドラコにゃんの頭にドラゴンのツノが写ってるよ。この子はやっぱり本物のドラゴンだ。

 俺はチェキとメンバーズカードを握りしめてドアを開いた。

 いつの間にか、店の奥から他のメイドさんたちも見送りに来ている。ドラコにゃんと寿里とマギナ、そしてメイドさんたちが手を振るのを見届けて、俺はミルキーウェイを後にした。

 みんなありがとう。絶対にまた来るからな。

 

「行ってらっしゃいませにゃ、ご主人様♡」

 

後書き

カフェ・ミルキーウェイには他にも、堕天使やヴァンパイアや大魔王などの異世界住人が出稼ぎに来ています。

他のメイドさんのメニューやゲームはみんなそれぞれ違うので、試してみたい方は秋葉原で『ミルキーウェイ』というメイドカフェを探してみてくださいね。

ただし、1日1時間以上を過ごしてしまうと、現実世界に戻れなくなりますのでご注意を。

本当は長編としていろんなメイドさんを描いていこうと思ったのですが、今回はお試しということで短編サイズで完結させてしまいました。

拙い文章に最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。

 

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