オリジナル小説

【下書き】

投稿日:2016年11月23日 更新日:

 

黒猫たんは神かわいい!

 

俺妹 黒猫たん

 

下書きです。読んでも仕方ないのでブラウザバックしてください。

 

 

 

 

 

 

 

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オリジナル小説
【魔法少女まどか☆マギカ 別編~再臨の物語~】 連載中
まどマギオリジナル小説再臨ロゴ2

 

オリジナル魔法少女まどか☆マギカ小説「再臨の物語」第一部はこちら
 

オリジナル魔法少女まどか☆マギカ小説「再臨の物語」第二部はこちら
 

 


 

オリジナル4コマ漫画

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登場人物

・主人公
HN:モモイロイツキ
本名:桃城イツキ(ももしろ いつき)
18歳
能力:神の声(3つの命令)ただし覚醒時のみ使用可能、普段は無能
学園1年生、アダルト科(エロ・下ネタ系のブロガー)
一人称:僕
呼ばれ方:モモイロくん(さん)、イツキ(修子のみ)
PCは旧型(У’sモデル)

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・メインヒロイン
HN:仮面修子(かめんしゅうこ)
本名:仮面修子(かりめん しゅうこ)
18歳
能力:変態的服脱がせ
学園1年生、アダルト科(エロ・下ネタ系のブロガー)
一人称:アタシ
呼ばれ方:仮面さん(ちゃん)、修子(イツキのみ)
設定:背が低い、ちっぱい、キツネのお面、ショートヘア、普段は変態キャラ
性格:変態+強気

変態的裸男を召喚

キメ台詞「その服、アタシが剥いてやる」

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・ライバル
HN:ドッグマスターあっくん
18歳
能力:分析能力
学園1年生、愛玩動物(コンパニマル)科 (ペット系のブロガー、犬)
※コンパニマル・・・コンパニオンアニマル(愛玩動物)の略
一人称:僕
呼ばれ方:あっくん(さん)
設定:イケメン優等生、黒髪、ツリ目
性格:クール+合理的

猋(ばんひょう)のサーベラスを召喚・・・つまりケルベロス

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・学園のトップブロガー
HN:るり子
20歳
能力:絶対防御
学園3年生、イラストレーション科 (オリジナルイラストのブロガー)
一人称:私(わたくし)
呼ばれ方:るり子様(さん)
設定:現・学園のトップブロガー、二代目覇王、清楚で穏やかな性格、お嬢様(?)、茶髪ロング、きょぬー、羽根つきのペンマウス
性格:温和+真面目

オリジナルイラスト「アルティメット少女」を召喚

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・初代覇王
HN:yukiBerry
年齢不明
能力:神の声
卒業生、絶対的王者、和風美人、女王様キャラ
一人称:私
呼ばれ方:yukiBerry様(さん)、初代覇王
設定:学園創設以来のトップブロガー、伝説の人、学園のナビゲーターに扮している
性格:強気+女王様

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学園のナビゲーター(実はyukiBerry)
名前:コイン
一人称:わたし
呼ばれ方:コイン(ちゃん)、コインさん(るり子のみ正体を知っている?)
性格:天然+従属的

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・ヒロイン②
HN:しろい兎
18歳
能力:ロリ萌え
学園1年生、イラストレーション科 (オリジナルイラストのブロガー)
一人称:わたし
呼ばれ方:兎(ちゃん)
設定:妹キャラ、人懐こい、才能はないが努力家、きょぬー、ロングのツインテール、色白
性格:常識的+活発

オリジナルイラスト、萌えキャラの「猫耳エルフィン」を召喚

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・ヒロイン③
HN:不知火 牡丹(しらぬい ぼたん)
18歳
能力:中二病的妄想
学園1年生、イラストレーション科 (オリジナルイラストのブロガー)
一人称:私、我(われ)
呼ばれ方:不知火さん、牡丹ちゃん(兎のみ)
設定:兎の親友、邪気眼厨二病、痛い言動、ゴスロリ、ひんぬー、銀髪ロング、背中に黒い羽根、碧眼
性格:非常識+感情的

オリジナルイラスト、厨二病キャラ「夜風の女王」を召喚

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・担任教師
HN:ステ娘(すてこ)
アダルト科担任
呼ばれ方:ステ娘教師、エロ教師(修子のみ)
設定:イツキと修子の担任教師、白雪学園主任、、ドSキャラ、アダルトカテゴリのトップブロガー、バズリティーの開発者
性格:粗暴+優しい

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・四天王
HN:男衾つよし(おぶすまつよし)学園2年生
冥神ハデスを召喚
コンパニマル科に転属

HN:リカ姉様
オネエ言葉
狂暴パンダを召喚(超絶物理キャラ)

HN:陽気な期団長
陽キャ
彩烏を召喚
※修子のバズリティーで彩羽を剥かれて敗北する(修子への咬ませ犬なのでどうでもいいキャラ)

HN:南電子(みなみ でんし)
無言キャラ
ピエロを召喚(リス・トラ柄)

 

・クラスメイト
HN:すけどうたらEX
HN:団子騎士(だんごないと)
HN:日野イルカ

 

 

変態少女と、転生失敗した僕が書くブログ

 

第一話 変態少女と、転生失敗した僕

 

「準備はいいか?」

と、キツネのお面を被った少女が僕に言った。

「いや、ちょっと待って……」

「時間がないぞ」

「そんなこと言われても、僕はまだ心の準備が出来てな……って、ああっ! もう押したの!?」

「もう押した」

僕の隣にいる少女――仮面修子(かりめんしゅうこ)は、事も無げにパソコンのマウスをクリックしていた。

『受信完了、申し込みを受け付けました』

モニターに映し出された文字は、僕たちが異世界に転生する物語の始まりを告げている。

異世界転生――

つまり僕は、この現実世界と決別して、違う世界で特別な能力を持って活躍していくんだ。

「イツキ、何を言ってるんだ? これは『異世界に転生する物語』じゃないぞ」

「ええ!? 違うの? じゃあ僕らがこれから行くのは、異世界じゃなくて……」

「学校だ。Weblog専門学校、白雪学園」

「学校!? やっと高校を卒業したのに、また学校に行くの? そんなの聞いてないって!」

「今、言った」

うわぁぁぁっ! 騙されたーー!

てっきり異世界転生する物語だと思ってたのに、学園モノなんて嫌だよ。僕は勉強が大嫌いなんだ!

中止、中止! このお話中止!

今すぐ中断! 取り消し、解約、解消、解除、解放! 破棄して! 白紙に戻して! キャンセルして! リリースして! クーリングオフしてーー!

「もう遅い」

と言って修子は、キツネのお面を顔の横にズラした。小さなお面の中から、その素顔が見えてくる。

瞳は燃えるような赤色で、透き通るような白い肌に整った顔立ち。サラサラの髪の毛は漆のように美しい黒色で、あごの先までスっと伸びている。

ここまでは普通に可愛い少女なのだが、妙ちくりんなのはキツネのお面を付けているところ。縁日で売っているような、おもちゃのお面だ。

で、さらに珍妙なのが……

頭にでっかいキツネの耳。これが、もふもふ。

お尻にもでっかいキツネの尻尾。これも、もっふもふ。

両方ともアクセサリーだけどね。

で、着ているのは高校時代のセーラー服っていう――改めて見ると、修子の格好は滅茶苦茶だ。

「そんなジロジロ見るな。興奮して脱ぎたくなるじゃないか」

「どうして今そんなセリフが出て来る?」

「にししっ、アタシは変態だからな」

そう……この仮面修子(かりめんしゅうこ)は見た目も名前も珍妙だが、そんなことより何よりも、コイツは重度の変態なのだ。

変態少女はパソコンのモニターに映し出された「転送開始」にカーソルを合わせ、カチッとクリック。

すると僕らの視界は真っ白になった。

 

 

僕の名前は桃城(ももしろ)イツキ。高校はなんとか卒業したんだけど、進学も就職もせずにニートになりました。

勉強は嫌いだし、特にやりたいことがあるわけでもない。僕に何が出来るかと聞かれても、僕には何もできないから。

そんな僕に「イツキはどうせ暇だろ? 一緒に仮想世界に行かないか?」と意味不明な誘いをしてきたのが、この仮面修子。高校の頃の同級生だ。

「仮想世界」って聞いた僕は、流行りの「異世界転生」だと思ってさ。ニートやってても仕方ないから「面白そうだ」って誘いに乗ってしまったわけ。

結果、これだよ。

「あなたたちが最後の入学生さんですね。入学式の会場はこちらですよ~」

ここはWeblog専門学校・白雪学園。その校舎の前で、僕らを呼んでいるのは

「私は学園ナビゲーターのコインちゃんで~す。よろしくね♡」

どこかの同人誌イベントから抜け出してきたような服装――控えめにいえばコスプレ、大袈裟にいってもコスプレな女の子。

フリフリのワンピースにエプロン姿。左腕にゴツイ電子機器みたいなのを付けてるけど、格好はまるでメイドさんみたいだ。

「メイドさんじゃありません! これでも私はれっきとしたここの卒業生で……あ、これは内緒なんだった。今のは忘れてくださいね」

頭をポリポリと掻くコインちゃん。うん、初対面でも分かる。この子はお馬鹿キャラだね。

「お馬鹿ってヒドイですよ! たしかに私の能力はバカみたいだって言われますけど……」

「能力?」

「あわわっ、何でもないですぅ!」

またボロを出したのかな。カワイイ顔してお馬鹿でドジ、テンプレ全開だね。でも許すよ、変態じゃなさそうだから。

すると隣にいる正真正銘の変態が

「アタシもその服を着てみたいぞ、交換しよう」

と、ちっこい身体をうねらせて服を脱ぎだした。

「えええっ!? ちょっとあなた、やめてください!」

コインちゃんが慌てて修子を止めに入る。コインちゃんゴメン。そいつは脱ぎグセがあるんだ。

露出狂の全裸シーンを食い止めたコインちゃんは

「この学園は服装自由なので、どんな格好でもいいです。……服さえ着ていれば」

僕たちに――というより修子に念を押した。

あ、大丈夫ですよ。僕は脱がないですから。

それから懐中時計を取り出し、時間を確認すると

「もうすぐ入学式が始まりますから、式場に急ぎましょう。他の皆さんが待ってます」

フリフリのスカートを揺らして、僕らを入学式の会場へと案内した。

 

 

てかさ、ここは何の学校なの?

僕は修子に言われるまま連れてこられたわけで、ここがどこだかも分かっていない。だいたい、この「白雪学園」のサイトを見つけたのも修子だ。

パソコンで検索して、「入学申し込み」ってボタンを(修子が勝手に)クリックしたら、いつの間にかここにいる。

そもそも今いる場所は日本なの?

「いや、違うぞ」

「外国?」

「それも違う」

「じゃあ宇宙なの? グローバルを通り越して銀河も超えたの? そういえば小宇宙(コスモ)を感じるような……」

そんな天馬幻想(ペガサスファンタジー)を垣間見た僕の横で、修子が鼻を鳴らしながら

「ここはネットの中の仮想世界だ」

と言った。

 

 

 

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第二話 エロフェッショナル・修子

 

「ところで、お二人のハンドルネームを聞いてもいいですか?」

入学式の式場に向かう途中で、コインちゃんが唐突に聞いてきた。ハンドルネームって、ネットやゲームで使う名前のことだよね。なぜにハンドルネームを聞いてくるの?

「入学生の名簿用です。この学園では皆さん、ハンドルネームで呼び合うようになっているんですよ」

コインちゃんは左腕に付けている機械をパカっと開いた。それ、小型のノートパソコンだったんだ。

「本名でもいいですけど、ここはネット世界なので」

モニターが開くと電源が入り、右手でカシャカシャとキーボードを叩き始める。

すると間髪入れずに

「アタシのハンネは『ノーパン仮面』だ」

と修子が答えた。

「……それで、いいんですか?」

「うん、いい」

「ダメでしょーー!」

なにそのハンドルネーム。穿いてないの? ねえ、パンツ穿いてないの?

「それじゃあ、『エロフェッショナル修子』でいいか?」

「……本当に、いいんですか?」

「うん、いい」

「それもダメーー!」

エロフェッショナルって何? エロを極めたプロってこと? どうしてエロばっかりなの!?

「じゃあ、仮面修子(かめんしゅうこ)でいい」

「あ、それならいいですね~。キツネさんのお面を付けてるし、カワイイですね、それ」

コインちゃんはキーボードを叩いて修子の登録を始めた。

てか「仮面修子」って本名だけど、いいのかな。読み方変えてるだけだよね。まあ、世の中に「仮面修子(かりめんしゅうこ)」っていう名前の人も珍しいから、本名だと分かる人はいないか。

しかし、修子は少し納得いかない顔をしていた。エロちっくな名前が却下されたのが気に入らなかったのかな。

「そちらの方はどうしますか?」

修子のハンドルネームが決まって、次は僕のネームを決める番だけど――僕は無理やり連れてこられただけで、入学するつもりはないんだよね。

「あの……僕は付き添いで来ただけなので、入学はいいです。コイツの入学式を見たら帰りますから」

そもそも、この学校が何を学ぶ場所なのかも分かっていないわけだし。修子には悪いけど、今さら勉強をしたいなんて思ってないからさ、僕は。

「え? この仮想世界は、学園を卒業しないと帰れませんよ?」

と、コインちゃんは「なに言ってるんですか?」みたいな目で僕を見てきた。

「入学案内に書いてありましたよね?」

と、コインちゃんは「まさか読んでないんですか?」っていう感じに首を傾げた。

「ええ!? そうなの!?」

そんな話はもちろん聞いてないし、入学案内があったことすら知らない。僕は慌てて修子を睨みつけるが

「アタシも知らないぞ」

「ウソでしょっ!?」

さすが修子、細かいことは気にしない。そんな性格なのは今に始まったことではないけれど。

ガックリとうなだれる僕に、コインちゃんが苦笑いを浮かべている。

「仕方ないな、イツキ。アタシと一緒に卒業しよう。この学校でエロの道を極めるんだ」

「どうしてエロなの!? そういう学校じゃないでしょ」

そうやって修子は、すぐに自分の世界に引き込もうとする。どこの世界に「エロ」を教える学校があるんだっての。

ねえ、ナビゲーターさん?

「まあ、そういう科目もありますけどね」

「あるの!?」

ここは一体、何の学校なんだ……。いい加減に教えて欲しいよ。

「ということなので、そろそろハンドルネームを決めていただかないと……」

コインちゃんに連れられてきた僕たちは『白雪学園・入学式』と書かれた式館の前まで来ていた。

式が始まるまでにハンドルネームを登録しないと入学ができず、そうすると卒業もできないわけで、つまり帰ることもできないという三重殺(トリプルプレイ)で人生がゲームセットしてしまう。

「……モ、モモシロイツキでいいです」

僕は仕方なく、本名をカタカナで登録することにした。修子も本名みたなものだから、僕もこれでいいか、という安易な考えだった。

「モモイロイツキさんですね。……はい、登録しました!」

コインちゃんが、パチンとエンターキーを叩く音が聞こえた。これで僕も新入生の仲間入りを果たしてしまったのだ。

――この時僕は、コインちゃんの間違いに気付くべきだった。ここまでの急展開と超展開で頭が混乱して、つい見落としてしまったんだ。

このちょっとしたミスのせいで、これから僕が過ごす学園生活が『エロ色』に染まってしまうなんて、この時はまったく思っていなかった。

 

 

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第三話 入学式

高校をギリギリで卒業したレベルの僕が、専門学校なんてやっていけるんだろうか。

「でも卒業しないと帰れないんじゃ、やるしかないのかなぁ……」

式館の会場に入った僕たちは、一番後ろの席に案内される。コインちゃんは僕らを席に着かせると、すぐにどこかへ行ってしまった。

会場はまるでコンサートホールのような造りで、数百人は収容できる大きな施設。

他の新入生らしき人たちは――二百人くらいはいるだろうか。ヒソヒソと話しをしていたり、カタカタとパソコンを叩いていたり、式の開始を今か今かと待っている様子だった。

「ねえ、修子。ここがどんな学校なのか、それは知ってるんだよね?」

僕は隣に座っている修子に小声で話しかけてみる。

「ん……まあ……なんとなく、な」

「そこもアバウトに来ちゃったの? まったく、性格が雑すぎ」

「たぶん、この入学式で教えてくれるから大丈夫。イツキ、心配するな。アタシが一緒にいる」

「だから不安なんだよ……」

はあっとため息を吐くと、館内の照明が落ちて辺りは薄暗くなった。どうやら式が始まるみたいだ。

やがて正面の舞台だけに照明が当たると、そこに数人の教師が姿を現した。その中のひとり、いかにも教師という格好で、メガネをかけた厳しそうな女性が前に出る。

マイクのスイッチが入る音がして、気の強そうな声で話を始めた。

「入学生諸君、白雪学園にようこそ」

凛とした姿でハキハキと喋る女性教師は、いかにもベテランというオーラを放っている。

「私は当校の学園主任だ。本日は学園長に代わって、私がこの式を執り行なう。諸君はすでに入学案内を読んで来ているはずだ。したがって、学園の詳しい説明は省略し、諸君が一番気になっているであろう部分のみを伝える」

ちょっ……! 僕にとって一番大事なところが省略されちゃったんだけど!?

そんな僕の気持ちなど気にもされず、女性教師は

「まずは報酬制度についてだが、諸君の報酬は…………業績報酬のパーセンテージは…………」

などと、難解な話をし始めた。

「……修子さん? 肝心なところが何も聞けないまま、僕らは置いていかれてるみたいですけど?」

「ああ、そうみたいだな」

「そうみたい、じゃないでしょ! あんな数学の難しい話をされても、サッパリ理解できないって」

「いや、あれは算数だ。それに、あんな話は聞かなくても平気」

そう言って修子は、席の前にあったノートパソコンに手を伸ばした。あれ? 僕のところにもあるね、同じようなノートパソコン。

でも、勝手に触っていいのかな。

修子がモニターを開くと、ブンッと画面が起動する。暗がりの中で、モニターの光だけが修子の顔を照らした。

「へえ、これはアタシ専用のパソコンになってるみたいだな。名前が登録されてる」

そんなことを呟きながら、カタカタとキーを叩く。それから画面をスクロールしたり、タッチパッドを撫でたりしながら、無言でモニターを眺めていた。

僕が横から覗き込むと、修子は白雪学園のホームページを見ていた。

学園の沿革、教育理念、設備、履修科目――

スクロールが早くて僕の目では追えなかったが、修子はひと通り見終わると検索エンジンを開き

『女性 ブログ エロ』

と打ち込んだ。

「…………っ!? ちょっと、何やってんの?」

「エロ系女子、ブログランキングか……」

声に出すなっつの!

「アダルト日記、ブログランキング……なるほど」

どうしてすぐエロに向かうの!?

「おおっ、なかなか過激だな」

「こらこら! 今はエロサーフィンしてる場合じゃないでしょ!」

パソコンに映る大量のエロワードに、思わずツッコミに力が入ってしまったせいで

「そこ! 一番後ろのふたり!」

舞台で話をしている教師から、さらに激しいツッコミが飛んできてしまった。他の生徒たちも反応して、一斉にこちらを向いてくる。

ざわめく館内。

「静かにしろ! 今は大事な話をしているんだ、黙って聞け!」

女性教師は怯むことなく、男勝りな口調で一喝した。微かなマイクのエコーの後に、シン……と静まり返る生徒たち。

数秒の静寂の後、教師は何事もなかったかのように説明を再開した。

周囲の注目を浴びてうつむく僕。ああ、恥ずかしい……。

しかし修子はまったく気にする様子はなく、隣の席から顔を寄せてくると僕の耳元にささやいた。

「ここはトップブロガーを育成する学校だ」

 

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第四話 花マルスイッチ、オン!

トップブロガーを養成する学校……?

「イツキ、そのノートパソコン。たぶん一人一台が支給されてるんだ。開いてみなよ」

修子に促されて、僕もパソコンを手に取った。天板には「У’s」っていう、見たことのないロゴが入っている。このロゴは、修子のパソコンにはなかったような……。

折り畳みのモニターを開くと、自動でパソコンが起動する。デスクトップにはアイコンがいくつかあって、その中の一つ「Weblog専門学校・白雪学園」をクリックしてみた。

学園のホームページが開くと、横から修子が説明してくる。

・生徒はそれぞれ自分のサイトを作って、そこでWeblog(ウェブログ)を公開する。
・そのサイトはインターネットを通じて、現実世界のすべてのネットユーザーに発信される。
・サイトには広告収入が設定されているので、サイトを閲覧された数に応じて報酬が発生する。

ブロガーとは、ブログを運営する人のことらしい。で、この学園はブロガーを育成するからWeblog専門学校なんだ。

本当はもっと詳しい説明があったけど、僕がすぐに理解したのはこのくらいだった。一番大事な「報酬」についての説明は、「パーセンテージ」という難解な数学用語が出てきたので、脳内で強制スルーした。

自慢じゃないけど、僕は数学が苦手だからね。

 

 

入学式が終わると、僕たちは式館の外で待機するよう指示された。

ゾロゾロと式館を出てきた生徒たちは、数人のグループに分かれて固まり始める。さっきの説明について、色々と意見し合ってるんだろうね。

しかし僕と修子に近寄ってくる生徒は誰もいなかった。まあ、入学式で派手に怒られたからね。「あのふたりはグレートなバカ」って思われてるのかもしれない。

そんな若干の疎外感を感じながら、僕はさっきの説明をひと言でまとめてみた。

「つまり、ブログを作ってたくさん見てもらえればお金がもらえる。ってことだよね」

「よく理解できたじゃないか、イツキ。花マルをあげよう」

僕の横で、修子は地面にマルを書き始める。ヤメなさい、木の枝で絵を描くのは。

しかもそのマル、真ん中に縦線を入れちゃってるから花マルじゃないぞ? ああ……バカ! そのマークは描いちゃダメ!

僕はいかがわしい花マルを慌てて揉み消す。

「今まで僕は、他人のブログを見ることはあったけど、自分で書いたことはないからなぁ。難しい部分はサッパリだよ」

「いいんだよそれで。こういうのは知識じゃない」

ん? 修子は「いかにも自分は知ってます」っていう口ぶりだけど

「修子はブログをやったことあるの?」

「いや、やったことはない。やったことはないけど、面白そうだ」

面白そう……か。出来るかわからないことを「面白そう」だなんて、躊躇とか不安とかないのかな。

「イツキ、お前はどうなんだ?」

「僕は……どうかな。出来るかどうかなんてわからないよ」

今までも、何かをやろうとしても何も出来なかったんだ。いや、何もしてこなかったと言った方が正しいかな。だから高校を卒業してニートになってしまった。

流れに任せて入学しちゃったけどさ……。サイトを立ち上げる? ブログを書く? 広告収入で報酬を得る? そんなの僕にできるわけがない。

そんな僕のネガティブ思考を察したのか、隣で修子が胸を張った。張るほどのモノはないくせに、大きく胸を張ると

「あとはスイッチを入れるだけだ」

「スイッチ?」

「そうだ。やる気スイッチ。アタシのスイッチはここにある」

と言って、自分の胸のあたりを指差した。右手の人差し指と、左手の人差し指で、小ぶりな両胸の先端にスイッチオン。

「……あんっ」

悩ましげな嗚咽を漏らし、頬を赤らめて恍惚の表情を浮かべた。

「どうしてすぐエロっぽい方向に持ってくの!?」

修子はオブラートに包むっていうことを知らないんだよ。高校の頃からそうだけど、いつもひとりでエロイズムをぶっ放してくる。

「アタシはエロっぽいんじゃない。エロだからな。変態だからな。隠す必要なんてないんだ。イツキも自分の中に閉じこもってないで、早く膜を破ってこい」

それを言うなら「殻を破って」じゃないの? どうして「膜」になるんだろ。それも下ネタじゃん。

しかし、修子の言うことはもっともだよね。僕は今まで、出来ないことは何もしてこなかった。だから僕には「自分の殻を破る」なんて言葉すら出てこないんだ。

妙に納得しちゃったよ。

修子はエロで変態だけど、実はいいヤツなんだよね。

 

 

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第五話 履修科目を選ぼう!

ほどなくして、中庭で時間を持て余している学生たちに合図がかけられた。

といっても教師が直接呼んでくるわけではなく、校内放送が流れるわけでもない。学生たちが持っているパソコンに、メールの着信があったのだ。

しかし、この着信音はデフォルトなの? 全員のパソコンが一斉に「You've got mail!」って鳴るのはシュールだよ。

で、メールの内容はこんな感じ。

「諸君にはこれから、学園での履修科目を選択してもらう。つまり『何をテーマにしてブログを書くか』だ。これが入学して最初の課題になる。選択できる科目はひとつ。添付のURLから履修できる科目を参照し、決まった者から受付室まで来るように」

この文章、さっきの女教師だね。上から目線といい、命令口調といい、入学式のまんま。

ひと通り文面を読み終わったら、添付のURLから履修科目の紹介ページに飛んでみると――

「うっ……種類が多い」

パッと見ただけでも二十種類くらいある。しかも科目名はすべてカタカナで書いてあって、聞いたことのない単語がいくつもある。特にこれ「コンパニマル科って、なに?」

他にもインテリア科とか、エンターテイメント科とか、まあこの辺りはなんとなく想像はつくけど。

あ、ひとつだけ凄く分かりやすいのがあった。

「アダルト科」

思いっきり直球。つまり「エロ」でしょ? 明らかに【誰か】の為に用意されたような科目だよね。

僕は横目でチラリと修子を見た。どうせ『アダルト科』を見ているんでしょ? これから自分のフィールドになる科目を、入念にチェックしているんでしょ?

しかし修子が目を向けているパソコンには

「インテリア科。装飾品や什器によって飾られた室内空間を扱う科目……」

「ちょっと待って! 修子は装飾品を考えるより、まず自分の格好を考えなさい!」

キツネのお面に、もふもふの耳としっぽを付けて、セーラー服を着てるっていうハチャメチャな格好でインテリアを語るんじゃない。

その姿はインテリアじゃなくてアニマルだよ。

「やっぱりアタシはこっちだな」

そう言って修子は『アダルト科』のページを開いた。「やっぱり」じゃなくて、最初からこっちでしょ。

パソコンの画面を覗き込むと、そこにはこう紹介されている。

「アダルト科。18歳以上を対象にするカテゴリ。主にエロチシズム(エロ)や下がかった話(下ネタ)を扱うサイトを運営する」

うん、説明されるまでもないね。要は男性向けのエロサイトを作るってことでしょ。

「いや……エロは男だけのものじゃない」

キリっとした顔で、修子が振り向いてきた。

「エロは男も女も共通だ。女だってエロが好きだし、エロを語りたい。エロに埋もれて、エロに沈みたいんだ」

「そりゃ修子だけだよ!」

やめてくれ。すべての女の子がそうじゃないから。

「まあ、アタシはエロリストだからな」

「何、そのテロリストみたいな言い方!?」

たしかに修子の、何でもかんでもエロに繋げてしまうそのエロセンスは、そこらの盛んな男子を超えている。

「ところで、イツキはどれにするか決まったのか?」

「ああ、そうだね。まだ【これ】っていうのは決まらないけど、ひとつだけ確定していることがあるよ」

そう。まだすべての履修科目を把握したわけじゃないし、どれをやりたいかより、どれが出来ないかを思案している状態。けどひとつだけ、これだけは僕に無理だと思う科目がある。

僕は自分のパソコンで、ひとつの科目に目を向けた。

「アダルト科、以外で」

「ど、どうして!?」

修子は大袈裟に驚いてみせた。まさか、僕がアダルト科を選択するとでも思っていたの?

それはない。

それはないぞぉ!

 

9161

 

第六話 兎ちゃんと、牡丹ちゃん

「エロだけは無理。何があっても僕には無理!」

「そんなことはない、イツキはエロが向いてる! 絶対にエロの才能がある!」

「そんな才能を発掘されても嬉しくないよ!? だいたい、僕のどこにそんな要素があるっての。エロの才能なんてひとつも感じられないでしょ」

「見ろ、アタシのエロセンサーがイツキに反応してる」

修子はおもむろに、無い胸を突き出してきた。胸がエロに反応するって何!? 僕はそんなエロい妖気を発した覚えはないよ? だいたいそこは、やる気スイッチだったはずでしょ。

「イツキはエロをやれば最強のブロガーになれる。アタシには見える!」

妖気が探知できて千里眼もあるのか。ついでにエロリストなんだったら修子が最強だよ。

「わかった、わかった。少し考えさせてよ。ちょっとトイレに行ってくるからさ、僕のパソコン持っててよ」

とりあえず修子から少し離れないと、何が何でもアダルト科を推奨されてしまう。

僕はノートパソコンを修子に預け、式館の裏にあるトイレに向かった。

用を足して戻ろうとすると、同じくトイレから出てきた女子ふたりの会話が耳に入ってきた。会話の内容からして、どうやら僕たちと同じように履修科目を相談しているらしい。

兎(うさぎ)はイラストレーション科にするのでしょう? それが良いと思うわよ」

牡丹(ぼたん)ちゃんはどっちにするか決めたの? イラスト科? それともファッション科?」

「そうね……私はファッションが本分であるのだけれど、せっかくだから兎と同じ科にしましょう」

「ホント? 牡丹ちゃんと一緒にできるのは嬉しいな~」

カワイイ女子が二人、仲良く科目を合わせようとしている。なんて微笑ましい光景なんだ。アダルト一択を強要されている僕とは大違いじゃないか。

女の子の一人は、ロングのツインテールで可愛らしい顔立ち。色白でにこやかな笑顔は、まるでアイドルみたいだ。いや……それよりも目を奪われるのは、たわわに実ったその胸元。メロンか!? そこにはメロンが入っているのか!?

で、もうひとりはこれまた物凄い美形の少女。サラサラの銀髪を長く垂らして、碧い瞳はカラーコンタクトかな? ただしこの子も違う部分が異常に目を惹く。

それはサブカルチャーの世界から飛び出てきたようなゴシックロリータファッション。真っ白なブラウスに真っ黒なドレス、それが美しい銀髪に見事に映えている。

けど、背中に生えている黒い羽根からは若干の中二病臭が。

そんな趣味も趣向も違いそうな二人は「一緒にイラスト科にしよう」と話しながら僕の前を通り過ぎた。

しかしあの子たち、腕にパソコンを付けてたね。そういえばコインちゃんも腕に装着してた――ああ、なるほど。支給されたノートパソコンは、ああやって腕に付けるものなのか。

でも、そのままトイレしてたの? パソコン装備したまま?

「牡丹ちゃん、早く受付室に行こう。たしか、このパソコンで科目の申し込みをするんだよね」

「ええ、そうね。個人IDが登録されているから、このパソコンですべて一元化されているわ。もし学園内でこれを手放したら、どんなイタズラをされるかわからないわね」

「そうだね~。なんでもかんでもデジタル化されてるってのも怖いよね~」

少女ふたりはそう言いながら、式館の方へ歩いていった。

てか、なにその説明口調。パソコンで科目の申し込みをする? すべてデジタル管理されてる? 手放したら誰かに悪用されるかも?

ふむふむ、この学園はそういうシステムなのね。あのパソコンがあれば、他人の履修科目を勝手に決めることもできる……と。

ははっ。自分のパソコンを他人に預けてイタズラされる、そんなマヌケなことをする奴は――――

ここにいるじゃないか!

僕は身軽な左腕を全力で躍動させて修子のところへ走った。

 

 

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第七話 言葉の弾丸

ダッシュで戻った中庭に、修子はいなかった。一体どこに行ったのか、迷うほどのことはない。修子が僕のパソコンを拉致して向かう先は、ひとつしかない。

受付室。

パソコンを手放してしまった僕に受付室の場所は分からなかったが、他の生徒たちの動きを見れば予想はつく。人の流れを読むんだ。

式館の隣の校舎に、人の出入りが集中している。

「あそこだ!」

僕がトイレに行っていた時間はほんの数分だ。今なら間に合う。修子、僕は『アダルト科』だけは嫌だ。この際、他の科目なら何でもいい、アダルトだけは、エロだけは、どうか――

「間に合って!」

「お、イツキ。遅かったな」

受付室の入り口から、修子が出て来た。左腕に装着されたノートパソコン。そして右手にもノートパソコン。

「修子、まさか僕の分まで申し込みをしてきたんじゃ……」

「ん? どうして分かった?」

あああぁぁ! やっぱり!

「アダルト以外にしたんだよね!? さっきの僕の話、聞いてたよね?」

「聞いてた」

ふう、良かった。修子はそこまで鬼じゃなかった。高校三年間、ずっと同じクラスで過ごしてきたんだもんね。そこくらいの意思疎通はできて当然だよね。

「で、どの科にしたの? 勝手にやったのは怒らないからさ、エンターテインメント? イラストレーション? この際、何でもいいよ?」

「アダルト科」

「どうしてそうなったぁ!?」

修子はやっぱり鬼だった。高校三年間、ずっと同じクラスで過ごしてきて、知ってた。修子は空気を読まない。独自のワールドが発動すると、周りを見ずに弾丸のように突っ走る。

「イツキ、おめでとう。今日からお前もエロフェッショナルだ」

そう言ってパソコンを手渡してくる修子。

泣く泣くそれを受け取る僕。

それにしたって、この学園も鬼だよ。いくら自分のパソコンを手放してしまったとはいえ、他人の申し込みまで受け付けちゃうなんてさ。受付の人も、パソコン2台持ってる修子に確認とかしなかったの?

「一応、聞かれたぞ。本当にアダルト科でいいのかって」

「じゃあ、どうしてこうなったぁ!?」

「でも、イツキのハンネを見せたら納得してた」

「……??? 僕のハンドルネームがどうして納得材料になるのさ?」

僕は本名をカタカナで登録してもらっただけだよ? 「モモシロイツキ」って、アダルトな名前じゃないし、エロが似合う名前でもないのに。

僕は自分のパソコンを開いてみた。画面が起動して「ようこそ、モモイロイツキさん」と表示されている。

……モモイロイツキ?

……モモ【イ】ロ?

「なに? このピンク色なハンドルネームは!?」

「受付の人が言ってたぞ。『アダルト科にお似合いのハンドルネームですね』って」

「何かの間違いだよね? 僕はちゃんと『モモシロイツキ』って伝えてたよね?」

「ナビゲーターが入力を間違えたみたいだな」

「あの――カワイイ顔してお馬鹿でドジっ娘!」

ガルルっと睨みつけたかったが、お馬鹿ドジっ娘のコインちゃんはあれから姿が見えない。

「そんなに怒るな、勝手に決めたアタシが悪かった。体で償うから」

「体で償わんでいい!」

「とにかく心配するな。ブログはよく知らないが、アタシはエロマスターだ。手とり足とり、裸で教えてやる」

「服は着てていい!」

この期に及んでエロにエロを重ね掛けしてくるなんて、修子の頭の中はエロばっかりだ。

「わかった、わかった。もういいよ。僕もアダルト科でやってみるから」

「ホントか!?」

嬉しそうに目を輝かせる修子。まったく、何言ってんだよ。もう決まっちゃったことじゃない。

「ま、僕に出来るとは思えないけどね」

「そんなことはない。イツキはやれば出来るんだ。今までだって、出来なかったんじゃない。やらなかっただけじゃないか」

「……え?」

修子の言葉が、なぜか僕の胸にズキンときた。胸の内をえぐるように、モヤモヤしている部分に風穴をあけるように、修子の言の葉が弾丸になって僕の胸を撃ち抜いた。

――イツキは出来なかったんじゃない、やらなかったんだ

か。

痛いことを言われちゃったな。たしかにそうかもしれない。

僕はまじまじと修子を見た。この華奢な身体のどこに、こんなバイタリティがあるんだろう。何も恐れないし、いつもブレない。やると決めたら突っ走る。

僕には無いものを、修子は持っている。

「ん? どうしたイツキ」

「いや、修子はすごいなって……思ってさ」

「じゃ、とりあえず一緒に脱ぐか」

「脱がん!」

僕には無い、ド変態というアビリティを持っている。

 

 

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第八話 アダルト科

アダルト科。

18歳以上を対象にするカテゴリ。主にエロチシズム(エロ)や下がかった話(下ネタ)を扱うサイトを運営する。

担当教師は……ステ娘(こ)

教師もハンドルネームなのか。

「アタシたちの教室はF棟の4階みたいだ」

修子はノートパソコンで学園の見取り図を開いていた。

僕も真似して同じものを見てみる。ノートパソコンはちゃんと左腕に装着したよ。これを手放すと、どんなイタズラをされるか分からないからね。

「へえ……この学園て広いんだね」

デジタル3Dで表示された学園案内には、AからFまで6つの校舎と、体育館や試験場、大きな校庭もあって、普通の学校と変わらない。

そして学園施設の外側には学生寮。そっか。「卒業するまで帰れない」から、僕らが住む寮も用意されているんだね。

と、僕らのパソコンにメールの受信があった。送信者は「アダルト科担任、ステ娘」

なになに? 「アダルト科生徒は教室に集合」だって。

「さっそく授業が始まるのかな」

僕らは少し回り道をして、敷地内の設備を見回しながらF棟に向かった。

 

F棟にはアダルト科とイラストレーション科があって、1階から3階がイラストレーション科、4階がアダルト科になっていた。

「キレイな校舎だね」

校舎の中はピカピカに磨かれていて、塵一つ落ちていないような清潔さ。床も壁も光沢があって、まるで新築のようだった。現実世界の学校に比べると、かなり近代的な造りだ。

3階のイラストレーション科を通り過ぎるところで、見たことのある女の子たちとすれ違う。

あれは……さっきトイレの前で見かけた女の子たちだ。

たしか、「兎(うさぎ)」っていうハンドルネームでアイドルみたいに可愛らしい子と、「牡丹(ぼたん)」っていうゴスロリ服の女の子。

二人揃ってイラストレーション科に入ったんだね。

イラストレーション科は、主に絵(イラスト)によって視覚化表現したサイトを運営する科目。イラストレーターとか、絵師さんと呼ばれる人たちのブロガーが多いらしい。

きっと二人とも、絵を描くのが好きなんだろうね。自分の好きなジャンルを選択して、仲良く教室に入っていく。

対して僕は、「これだけは嫌だ」と言っていたアダルト科の教室に向かっている。

「はぁ……どうしてこうなったんだろ」

微笑ましくも羨ましい彼女たちの姿を見て、僕は無色透明のため息を吐いた。

「ん? イツキ、どうした?」

「いや、何でもない」

修子は本当に「僕がアダルト科でやれる」と思ってるのかな。同じクラスになるのは心強いけどさ、人には向き不向きがあるんだよ。

そんな僕のため息と心情は、修子にはもちろん見えていない。代わりに修子が熱視線を注いでいたのは、ゴスロリ服の背中に付いている黒い羽根だった。

「あれいいな。アタシも欲しい」

「……ウソでしょ? その『もふもふキツネファッション』に黒い羽が生えたら、それはもう妖狐(キツネのお化け)になっちゃうよ」

「それもカッコイイ! 後で頼んでみよう」

まったく、修子の趣味は変わってるよ。中身はもっと変わってるけど。

 

 

4階のアダルト科教室に入ると、僕らの他に数人の生徒がいた。

金髪ツンツンでガラの悪そうな男の人、髪が長くて清楚そうな女の人、顔も身体も丸っこくてメガネをかけた男の人、

……以上。

「これだけ!?」

40くらいの席があるのに、教室内はガランとしていて、これはもしや「アダルト科って人気ないの?」と疑ってしまうレベルだった。

そりゃそうか。好き好んで『エロ』を選んでくる人は少ないよね。

しかし、あの金髪ツンツンの男は『アダルト』っていうよりも『ギャンブル』とか『夜の街』っていうのが似合いそうに見える。後ろ姿だから顔は見えないけど、服装がチャラっとしてるし。

髪が長くて清楚系の女の人も『文学』とか『習い事』みたいな真面目なジャンルが似合いそうなタイプ。スラっとして凛々しい後ろ姿からは、とても『アダルト』な雰囲気は感じられない。

で、顔も身体も丸っこい男の人は……うん、『ゲーム』とか『アイドル』が似合いそう。

見た目だけで判断しちゃいけないけどさ、『アダルト科』っていう割には、みんなそれぞれ、他に似合いそうなジャンルがあるような気がするんだよね。

それにしても、3人とも姿勢よく座って微動だにしないのはどうしたのかな。まるで金縛りにあったかのように正面を向いて動かない。その視線の先には……

「何をしている。お前たちが最後だ、早く席に着け」

……って、あれは

「入学式の女教師!?」

そこには、入学式で「学園主任」と名乗っていた、いかにもベテランで、いかにもスパルタな女性教師が、金剛石(ダイヤモンド)でも砕きそうな鋭い視線を僕らに突き刺した。

 

 

14500

第九話 女豹のエロブロガー

「私はアダルト科担任のステ娘(こ)だ」

僕らが席に着くと、スパルタ教師が教壇で自己紹介を始めた。ビシっとした服装で力強い声、貫禄のある態度、威圧感がすごい。その見た目でハンドルネームが「ステ娘」っていうのも、ギャップがあり過ぎ。

それにしても、このスパルタ教師がアダルト科の担任なのか……。

未だに『やる気スイッチ』の入っていない僕は、ここに来てさらにゲンナリだった。

じゃあ、変態的なやる気スイッチがオンしている修子はどうなんだろう。さすがにこの恐そうな担任を前に委縮しているのかと思いきや、修子は目をキラキラさせて教師を見つめていた。

「どうしたの修子、そんなに楽しそうにして」

僕は目線は逸らさないまま、隣の修子に小声で話しかけると

「イツキ、あの教師はすごい人だぞ。さっきアダルトブログのランキングを見てたら、ステ娘って人のサイトがあったんだ」

「へぇ……あの教師、自分でもアダルトブログを書いてるんだ」

「しかも、かなりの上位ランカーだ。ブロガーのほとんどは『ブログ王国(キングダム)』っていうポータルサイトに登録してるんだけど、あの教師はアダルトカテゴリの中でトップだった」

修子はノートパソコンを操作して、ブログ王国のトップページを表示した。

それは100万を超えるブログが登録されている、国内最大のポータルサイト。サイト内には独自のポイントシステムがあって、IN(イン)ポイントという、要は『応援ポイント』でランキング付けさていれる。順位が高ければ高いほど読者の目に留まり、PV(ページビュー)(アクセス数)が増える仕様。

そこから『ステ娘のブログ』にアクセスすると……

「おおっ! エロいな!」

エロフェッショナルを自称する修子ですら、思わず声を漏らしてしまうほど過激なページが、出て来る出て来る。

きわどい画像、放送禁止ギリギリの用語、サディスティックな言葉づかい。特にこの画像、スレンダーなボディラインで誘うように写っているのは、あの教師本人だよね?

顔と身体の大事な部分は隠れてるけど、一糸まとわぬ白い肌は大人のフェロモン全開。モニターから薔薇の香りでも匂ってきそう。

おまけにタイトルは『ステ娘が貴方(アナタ)を教育してあげる♡』って……教師のクセになんて挑発的なブログを書いているんだ。

そんな、エロのお手本のようなブログを夢中で眺める修子。

「にししっ、これはエロい」

恍惚として見入っているその顔は、もはや十代の女子ではない。あのさあ、修子。――目つきがヤバイよ?

「見ろイツキ、この写真はエロすぎるぞ。女豹(めひょう)みたいなポーズだ、アタシもやってみたい」

「背がちっちゃい修子じゃ、子猫が伸びをしてるみたいになっちゃうよ」

「おおおっ、こっちは両手でおっぱいを抱えてるぞ! アタシもできるかな?」

「ペタンコの修子に抱えるモノはないよ」

まったく、興奮しすぎ。いい加減にしないと、入学式の時みたいに怒られちゃっても知らないからね。

……って気付いた時には、もう遅かった。

仮面修子(かめんしゅうこ)

「ン゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!? この下着姿はスゴイぞ! こんなに足を開いたら見えちゃう!」

「仮面修子!」

「いや、ちょっと待て。……見えてる! 見えちゃってるぞ! ほら、イツキ!」

「仮面修子!!」

「ほえ?」

大胆かつエロチックな悩殺画像に食い入っていた修子の前には、

「ほほう……ずいぶんと気に入ってもらえたようだな。どうだ? 私のブログは」

と、不敵な笑みで見下ろすステ娘教師がいた。

「お前【たち】も、私のようなブログを目指してみるか?」

そう言って、ふふふ……っと含み笑いを漏らすステ娘教師。目が笑ってない。目が笑ってないよ!?

「だが二人とも、その前に教えてやろう。私は無視されるのが一番嫌いでな。だから、私の話を聞かない生徒には教育が必要だと思わんか?」

「女豹のポーズを教えてくれるのか?」

修子は「にししっ」と笑いながら、とんでもないことを言い出した。ちょっと……空気を読まないにも程があるんじゃないの!?

一瞬で凍り付く教室内。

と――

ズバッ!

「あうっ!」

修子の脳天にメガトンチョップが炸裂し

ズガッ!

「いだっ!」

僕の脳天にもギガトンチョップが降ってきた。

僕たちは仲良く机に倒れ込み、しばらくの間はお星さまを数えながらステ娘教師の話を聞くのだった。

 

アダルト科の担任、ステ娘教師は、

美人でナイスバディでドSな女豹で、

ついでにアダルトカテゴリのトップブロガーで、

おまけに暴力教師だった。

 

 

16300

第十話 アダルト科の愉快な仲間たち

この白雪学園には、普通の学校とは違った特殊な校則がある。たとえば……

『物理的な闘争は禁止』

これはつまり、ケンカはしちゃダメってことだね。

「でも『物理的な』っていうのが引っかかるよね。物理的じゃないケンカはアリなのかな」

僕の頭には、暴力教師のお仕置きで大きなタンコブが出来ていた。

「あのチョップは『物理的』だったぞ」

身長が145センチメートルの小柄な修子も、タンコブのおかげで5センチくらい背が伸びていた。

それに、『睡眠と入浴時以外はノートパソコンの着用を必須とする』ってのも、学園独特の校則。個人情報やブログの管理などをノートパソコンで一元化しているこの世界。これを手放すとどんな目に遭うか、一度失敗している僕には身に染みて分かっているからね。

他にも、『ブログ王国(キングダム)へのランキング登録が義務』とか、『卒業するまで学園を出ることはできない』などがある中で、

『広告収入による報酬は、仮想通貨で得られる』

「報酬ってのは、つまりお金がもらえるってことだよね。でも仮想通貨って、どういうことだろう」

まさか子供銀行券みたいなおもちゃのお金じゃないよね?

「通貨単位は『ベル』って書いてあるぞ。聞いたことがないな」

修子と一緒に首を傾げていると、金髪でガラの悪そうな男が

「ベルってのはこの世界の仮想通貨だけどな、現実世界に帰ればちゃんと『円』とか『ドル』に替えられるんだぜ」

いつの間にか僕の横に来て、口を挟んできた。

「そうよ。仮想通貨はこの世界だけのものだけれど、仮想世界(こっち)で何かを買うには通貨(ベル)が必要ね」

今度は髪の長い清楚系の女の子が、僕らの方に振り向いた。

「だから広告収入で報酬をもらわないと、こっちの世界では一文無しなんだな」

最前列に座っている丸っこい男が、背中を丸めたまま言った。

今は授業と授業の合い間、つまり休み時間だ。ステ娘教師がいなくなった教室は、生徒たちだけの空間だった。

あの暴力教師がいる間は、みな姿勢を正して口を閉ざしていた。もし教師の話を無視しておしゃべりを始めようものなら、容赦なく殺人チョップが飛んでくるからね。

それを実証したのは僕と修子だけど。

「オレ様は『すけとうだらEX』ってんだ。アダルトブログの世界じゃ、ちょっとは名の知れたブロガーなんだぜ」

なんと、金髪でガラの悪いお兄さんはすでにアダルトブロガーだった。

「あら、あなたが『すけとうだら』だったのね。あなたの下品なブログ、たしかに名が知れてるわよ?」

「な、なんだと!? 下ネタの王道をいくオレ様のブログを馬鹿にするとは、アンタもそれなりのブロガーなんだろうな?」

清楚系のお姉さんは意外と毒舌だった。

「ワタクシは『日野(ひの)イルカ』よ。誰かさんと違って、もっと上品なアダルトブログをやっているわ」

「は~ん? テメーが『日野イルカ』か。キラッキラの百合(ゆり)ブロガーじゃねえか。あれが上品とは聞いてあきれるぜ」

「な、なんですって!? 優雅で美しいワタクシのブログを侮辱するなんて、許しませんわよ!」

ガラの悪いすけとうだらEX君は、口も悪かった。てか、『すけとうだらEX』って呼びにくいからさ、『すけたら君』でいいかな。

で、毒舌のお姉さんは『イルカさん』ということで、二人には納得してもらえました。

そんな二人は、最前列に腰掛けている丸っこい人にも自己紹介を促す。

「で、そっちのデブはどうなんだ?」

「あら、デブにデブと言っては失礼ですわ」

どっちも失礼だよっ!

「ボ、ボキュのハンネは『団子騎士(だんごナイト)』なんだな。ボキュは君たちと違って、もっとコアなブログを書いているんだな」

「「団子騎士だって!?」ですって!?」

すけたら君もイルカさんも、声を揃えて驚いている。どうしたんだろう、団子騎士さんてそんなに凄い人なのかな。

「あんたが――『下劣すぎて誰もついていけない』で有名な団子騎士か?」

「エロというよりは、むしろ淫猥。専門的というよりは、むしろマニアック。エロブロガー界のキワモノと名高い団子騎士のブログ……その名も『萌(も)エロ!まにあっくす』」

二人とも、汚いものを見るような目で恐れおののいている。しかし当の本人は、むしろそこに愉悦を感じるように恍惚の表情を浮かべていた。

「も、もっと褒めてほしいんだな」

「「褒めてねぇ!」ないわよ!」

キワモノなエロブロガーの団子騎士君は、見た目が団子みたいで一人称が「ボキュ」、虐げられて快感を覚えるドMな人だった。

なんとも個性的なメンバーが揃ったもんだね。僕らはアダルトな世界に無知だから3人のブログを知らないし、ステ娘教師のブログだって初めて見たけど。

「な……っ! お前ら、もしかしてステ娘も知らねーのか?」

すけたら君は顔に似合わずリアクションがオーバーだ。ズザっという音が聞こえそうなくらいに後ずさりして、目をひん剥いている。

「あの人はエロブログ界のトップだぞ!? ブログのPV(アクセス数)だってオレらとは桁が違う上位ランカーだ」

そういえば、さっき修子が見ていたランキングページだと、アクセス数は十万単位だったかな。だた、それがどのくらいすごいのかは、僕には分からない。

「じゃあ、もっと分かりやすく説明してやる。そのアクセス数を、お前らが話してた仮想通貨『ベル』の報酬に換算するとだな……」

この世界の仮想通貨は、単位こそ『ベル』と呼ばれるが、実際は『円』と同じ。ブログの閲覧数によって得られる報酬は、お金と同じ価値。それが、

「あの人のブログは、一日で数万ベルの収益があるんだぞ?」

数万ベルって――数万円ってこと!?

 

 

18600

第十一話 タイトルは『ノーパン仮面による変態ブログ』

アダルト科の担任、ステ娘教師はすごいブロガーだった。

どうやらこのクラスに集まった僕ら以外の3人は、ステ娘教師の授業を受けるために入学してきたらしい。上位ランカーであるステ娘教師からそのノウハウを学び、上位のアダルトブロガーを目指す3人だった。

が、すけたら君曰く、世の中にはもっとすごいブロガーもいるらしい。

「どうせお前らは知らねーんだろうけどな。この学園にはステ娘教師よりも上のブロガーがたくさんいるんだぜ」

「もっと報酬をもらってる人ってこと?」

僕は報酬についてはあまり興味がないけれど、上位のブロガーがどんなものなのかには興味があった。

「ああ、そうさ。有名どころでいくと、コンパニマル科の男衾(おぶすま)つよしってのは、ブログ王国のランキング2位でな」

全体ランキングの2位ともなると、一日のPVが数十万単位になるらしい。そして

「ブログ界の覇王と呼ばれるランキング1位は、るり子さんっていうんだけどよ」

イラストレーション科3年、ハンドルネーム「るり子」。

ポータルサイト・ブログ王国でブッチギリの1位に君臨するるり子は、一日で百万PVに達する、まさに異次元のブロガーだという。

イラストレーション科といえば、この校舎の下階にあるクラスだ。

「レベルが違うわよね」

「ボキュも、るり子さんのブログは毎日見ているんだな」

イルカさんや団子騎士君も知っている。いや、ブロガーならば知らぬ者はないブログ界のトップランカーたち。

そんなトップブロガーを目指して、みんな白雪学園に入学してくる。

この時、「僕は、違うんだけどね」とは言えなかった。

「ところで、お前らもこの学園に来たってことはブログのひとつでもやってるんだよな? 良かったらハンドルネームとサイト名を教えてくれよ」

すけたら君は左腕のノートパソコンを起動させると、検索エンジンを開いた。

「僕のハンドルネームはモモ【シ】ロイツキ。ブログはやったことがないんだけど、成り行きでここに入学しちゃったんだ」

「イツキ、ハンネが間違ってる。イツキのハンネは『モモイロイツキ』だ」

即ツッコミを入れる修子。はいはい、そうです。僕のハンネはモモ【イ】ロイツキです。誠に不本意ながらピンク色な名前で登録されてます。

「マジかよ!? ブログをやったことがないのにWeblog専門学校に入るとか、ずいぶんと積極的だな」

すけたら君が驚愕の表情で僕の顔を覗き込む。このオーバーリアクションは彼のクセなのかな。

「ふうん……素人がいきなりアダルトブログとか、思い切ったことをするわね」

イルカさんも、僕の暴挙にはあきれ顔だった。

「実はアダルト科に入ったのも、コイツが勝手に決めちゃったことで……」

この学園に入学したのも、アダルト科に入ったのも、僕の隣にいる変態少女のせいです。

「で、隣のチビッ子は何ていうハンドルネームなんだよ」

すけたら君の視線につられて、イルカさんと団子騎士君も修子に注目した。キツネのお面にもふもふの耳と、もふもふのしっぽを装備したハチャメチャな少女。

修子は「待ってました」と言わんばかりにキツネのお面を被ると、

「アタシのハンネはノーパン仮面だ」

と居丈高に言い放ったので

「修子、それ間違ってる」

僕も即ツッコミを言い放った。そのハンドルネームは入学式で却下したでしょ。

「ノーパン仮面……?」

「あら、そのハンネ。どこかで聞いたような……」

はて? と、すけたら君もイルカさんも、「ノーパン仮面」に聞き覚えがあるように天井を見上げている。

「ボキュのブログにコメントしてくるハンネなんだな」

団子騎士君はそう言って自分のサイトを開くと、コメント欄を見せてくれた。

『萌エロ!まにあっくす』というブログタイトルが気色悪い文字で描かれているトップページから、過去コメントの中には「ノーパン仮面」なる変態的なハンドルネームで、読むもおぞましい変態的なコメントが書かれていた。

「思い出した! ノーパン仮面って、自分はブログを書いていないけど、他人のアダルトブログにやたらコメントしてくる、有名な『コメ専』だ」

すけたら君も自分のサイトで『ノーパン仮面』のコメントを見つけたらしく、パソコン画面を忙しくスクロールさせている。

「ワタクシのサイトにもコメントしていますわ。『もっと○○○○なシーン希望』とか、『興奮して○○○○してくる』とか――」

修子……仮にもちょっと前まで女子高生だったのに、なんて変態的なコメントを書いてるんだ。それにしても、コインちゃんにハンドルネームを聞かれた時に躊躇いもなく「ノーパン仮面だ」って言ったのは、これだったのか。

3人の注目を集めたノーパン仮面は、しかしゆっくりとキツネのお面を外した。そして

「間違えた。ノーパン仮面はアタシじゃない」

お面を顔の横側に向け直し、

「アタシは今日からエロブロガーの仮面修子(かめんしゅうこ)だ」

と、とぼけたようにそう言った。それから自分のパソコンで『ブログ開設ページ』を開くと、カタカタ……と片手でキーをタッチして文字を打ち込む。

それは修子が作る、自分のブログのタイトル。

そこには

『ノーパン仮面による変態ブログ』

と書かれていた。

 

 

20700

第十二話 タイトルは『変態少女と、転生失敗した僕が書くブログ』――

はじめまして、モモイロイツキです。

人生で初めてのブログを開設しました。僕のブログ、タイトルは『変態少女と、転生失敗した僕が書くブログ』です。カテゴリはアダルトです。

最初の記事で何を書いたらいいのか分からないので、まずは僕の友達を紹介します。

友達の名前は仮面修子(かめんしゅうこ)。

見た目は可愛い女の子だけど、彼女は重度の変態です。すぐに脱ぎたがるし、エロトークと変態トークで突っ走るし、自称「エロフェッショナル」だとか「エロリスト」だとか「エロマスター」だとか、とにかく好き勝手に名乗ってます。

さらに、セーラー服を着ているのに「パンツは穿いてない」らしく、一緒にいる僕は「いつスカートが捲れてしまわないか」心配です。

パンツを穿きたくないなら、せめてフンドシでもしてればいいのに、と思います。

 

 

「ど、どうかな……」

放課後、僕は初めて書いた自分の記事を修子に見せていた。学園の授業は夕方には終わったけど、僕らは教室に残って記事を書いていたんだ。

ブログなんてやったことがないし、しかもアダルトカテゴリなんてどう書いたらいいのか分からないからさ。パっと思いついたのが修子の変態行動だったから、最初のネタとして書いてみて、とりあえず「パンツの代わりにフンドシでもどお?」っていうオチを付けてみた。

「イツキ」

「え? 何? ちょっと面白かった?」

自分の書いたものを他人に見せるのは恥ずかしかったけど、『コメ専』と言われた修子なら気軽に感想をもらえるかと思ったら

「つまらん。5点」

「ええっ! どうして!?」

「なぜフンドシなんだ? フンドシだってスカートを穿いてたら見えないじゃないか」

「??? そういう問題?」

「だったらせめて、『スカートも穿かなきゃいいのに』っていうオチにするべきだな」

コイツに意見を求めた僕が間違ってました。

普通の人の斜め上の、さらに斜め上をいってる修子。対して僕は何の取り柄もないただの人間。宇宙人でも、未来人でも、異世界人でも、超能力者でもない僕には、修子のエキセントリックなアドバイスは憂鬱(ゆううつ)でしかなかった。

「でも、まあ最初はこんなもんだな。ブログはとにかく書くことが大事だ。アタシも書いてみたけど、どうも文字だけだとエロさと変態さが弱い」

珍しくしょげた顔をしている修子は、僕のパソコンに赤外線通信で『ノーパン仮面による変態ブログ』のアドレスを送信してきた。

どれどれ。

ノーパン仮面、もとい、仮面修子が初めて書いた記事は……

 

 

皆様こんばんは。ノーパン仮面の仮面修子です。

タイトルがノーパンだから、アタシも穿いてないかと思うだろ?

大丈夫だ、本当に穿いてないから。

そんなにジロジロ見るなよ、興奮して全部脱ぎたくなるだろ。

あ、今スカートを脱いだぞ。見たいか?

ほら。

『短パンを穿いてる画像』

悪いな、期待しちゃったか?

けど、ノーパン画像を載せたら「アカウントが凍結されちゃう」って、ウチのエロ教師が忠告してたからな。だからこのブログは、アタシのノーパン姿は見えないように、つゆだくな話をしていくぞ。

――以下、内容が過激すぎるので省略

 

 

「どうだ? イツキ」

「これ、ただのエロブログじゃん!?」

「何言ってるんだ、アタシたちがやるのはエロブログだぞ」

「そりゃそうだけど……」

ノーパンでスカート脱いだから見る? っていう誘いから始まって、短パン写真でガッカリさせて、でも自分は本当に女の子だよと分からせてからのエロトーク……って

「これはこれで、上手いのかなぁ」

「最初に読者を誘うためのテクニックだ。あのエロ教師がよくやってる。期待を持たせてガッカリされても、そこからエロトークで興味を持続させるんだ」

修子は「にししっ」と目を細めた。なるほど、ステ娘教師のブログを参考にしたのか。

たしかに修子は自分の顔は映してないけど、華奢な足を見せて小柄な女の子をアピールしてる。そんな女の子が過激なエロトークをぶちまけるギャップ。そこに興味を惹かれて、読んでる側は男女を問わずに最後まで読み進めてしまう。

かくいう僕も、気になって最後まで読んでしまったわけだ。

しかし、これだけ修子ワールド全開の記事を書いても、当の本人は満足していないらしく

「だけど、なんか弱いんだ」

と言って

「やっぱり文章だけじゃなくて、脱ぐところを動画で見せないとエロさが足りないよな」

自分のパソコンを机の上に置くと録画用のカメラアプリを起動した。一体何を始めるおつもりで?

「だから脱いでる動画を撮って載せよう」

「教室で脱ぐな! てか、そんな動画をアップしたらアカウントが凍結されちゃうんでしょ!?」

まったく……ステ娘教師のブログを参考にしたんなら、忠告もちゃんと聞こうよ。

僕は修子のパソコンを静かに閉じてあげた。

 

 

22770

第十三話 次回、テスト予告

僕らの学生寮は、アダルト科のあるF棟からすぐ近く。まるでビジネスホテルのような建物だった。ノートパソコンに内蔵されたIDでオートロックの入り口が開き、エレベーターもIDによって作動する。

何もかもがワンタッチなのは便利だけど、パソコンを失くしたら寮にも入れなくなるってことだね。僕は二度とパソコンを手放さないよ。

部屋の中はワンルームマンションのよう。全生徒に個室があてがわれていて、部屋にはバストイレからキッチンと寝室とクローゼット、それに最低限の家電や家具まで揃っている。

さっき通路ですれ違ったけど、すけたら君やイルカさん、それに団子騎士君も同じ寮だった。

「男女別とか、そういう配慮はないんだね」

「心配するな、イツキ。アタシは気にしない」

「いや、イルカさんがすごく嫌そうな顔をしてたけど」

――私(わたくし)があんな団子騎士(キモヲタ)と同じ寮とか、後で文句を言ってやりますわ!

って息巻いてた。うん、気持ちは分かるけどね。ただ、団子騎士君は

――そうやって罵られると、逆に萌えるんだな

って興奮してた。うん、その感覚は修子に通じ合うかもしれない。変態的な意味で、ね。

 

 

ここの寮生活はとても快適だった。食事は学食があるから自炊はしなくていいし、生活に必要な家具家電は揃ってる。

ただし、逆を言ってしまえば『それ以外は何もない』質素なものだった。

学園の敷地内にはコンビニやアパレルショップ、レストランといったお店があるけれど、僕たちはこの世界の通貨『ベル』を持っていない。

「プリンが食べたい」とか「新しい服が欲しい」と思っても、お金(ベル)がなければ何も買えないのだった。

「団子騎士君が言っていた『報酬がなければ一文無し』ってのは本当だね」

僕は大きくあくびをしてから、書きかけの記事を保存してパソコンを閉じた。

「欲しけりゃ自分で稼げってことだな」

修子は暇さえあればパソコンをカタカタといじり、ブログの更新をしている。おかげで『ノーパン仮面の変態ブログ』は順調にアクセス数を伸ばし、今では一日に百人ほどが訪れるサイトに成長していた。

ブックマークという、要はお気に入り登録者もいるらしく、早くもブログとして『形になってきた』らしい。

しかし僕のブログはそうはいかなかった。

この学園に来てから二週間が過ぎたけれど、『変態少女と、転生失敗した僕が書くブログ』はアクセスカウンターが未だに「二桁」。

二週間で二桁だよ? これを報酬にすると、たったの数ベル。つまり数円しかないってこと。

コンビニでプリンを買うどころか、駄菓子のひとつも買えないんじゃモチベーションも上がらないよ。

まあ、記事だって二つしか書けてないけどさ。

「あ~あ、記事を書いてお金がもらえるのは分かってるんだけどさ。何時間も考えて書いたものが、たったの数ベルにしかならないって考えるとキツいよね」

「最初は誰でもそんなもんだ。アタシだって一日に数十ベルしか稼げてない。時給で考えたら負けだな」

放課後になると、修子はいつも僕の部屋にやってくる。僕の部屋に来て、黙々とパソコンを叩いている。

授業以外の時間は自由だから、別に記事を書かなくてもいいんだけどさ。高校の頃は、放課後はコンビニで季節限定のアイスを食べたり、ゲーセンに行ったりしてたけど、今はお金がないから自分の部屋でパソコンをいじることしかできない。

僕は自分のベッドにゴロリと横になった。もう、今日は書く気力がないよ。

「そういえばイツキ、来週は定期テストだぞ」

「あ、それ。聞きたくない単語だなぁ」

天井を見上げて放心している僕に、修子が痛い現実を突きつける。

学校ってのはどうしてこう、テストと名の付くものがあるのだろう。しかもここはWeblog専門学校だから、どうせブログに関するテストなんでしょ?

僕みたいにまともにブログを書けていない人間は、やる前から結果が見えているんだよね。

「心配するな、イツキ。ここのテストは、問題を解いたり質問に答えるんじゃない。もっと単純で、もっと楽しそうなテストだ」

「テストに楽しいとか楽しくないなんてないと思うよ」

僕は仰向けの姿勢から身体を半回転させて、枕に顔を埋めた。今は何を聞いても憂鬱だ。

「テストは試験場で行なう。教師が立ち会い、生徒同士のバーチャルバトル試験とする」

文章を読み上げて、僕に聞かせる修子の声。どうやら学園通信を見ているらしい。そういえば、一斉メールが来てたっけ。

「応援ポイントとPVをパラメーターに換算し、各々のバズリティーで一対一の仮想バトルを行なう――って書いてあるぞ」

応援ポイントとPVは、ブログの応援ポイントと閲覧数のことだけど、それをパラメーターに換算する? バズリティーで戦う?

『バズリティー』ってのがよく分からないけど、なんだかゲームみたいだ。パソコンを使って対戦型ゲームでもやろうってのかな。

 

 

24700

第十四話 バズリティー

二週間後。

ここは定期テストを行なう、学園の中央にあるドーム状の試験場。野球やサッカーができそうなくらい大きな施設で、僕たちアダルト科の5人が到着したころには、すでに他科の生徒が試験を始めていた。

「お、おい。あれ見ろよ! ちょうど今から始まるみたいだぜ」

すけたら君がいつものオーバーリアクションで指をさしたのは、イラストレーション科の生徒と、エンターテインメント科の生徒が試験を始めるところだった。

舞台にいるのは立ち会いの教師と生徒が二人。そのうち一人の生徒は、僕の知っている子だった。イラストレーション科のアイドルっ子、たしか兎っていうハンドルネームだったかな。

向かい合わせに一対一で対峙し、同時にノートパソコンを起動させる。すると――

「パラメーターが映った!」

兎の頭上にくっきりと、いくつかの数値が出現した。まるでCG(コンピューターグラフィックス)のように、空間に文字が浮かび上がる。

HN:しろい兎
ATK:420
DEF:250
VIT:240
Buz:猫耳エルフィン

「あれは、ブログのPVが攻撃力、応援ポイントが防御力、ブックマークが体力……ってことか」

すけたら君、分かりやすい解説をありがとう。つまり、自分のブログの閲覧数や人気がそのままパラメーターに換算されているんだね。

でも、『Buz』っていうのはなんだろう……何かのキャラ名みたいなのが書いてある。

そして、ここからが謎のワード『バズリティー』の出番だった。

「バズリティー用意!」

教師が合図を掛けると、腕に装着したノートパソコンから立体映像が飛び出した。

兎が出したのは、大きな猫型の帽子を被った萌え萌えな女の子。ダボダボのオーバーオールにランドセル姿という、ロリ萌えのお手本のようなキャラクター。

そしてエンターテインメント科の生徒が出したのは、葵の家紋、三等身に紋付き袴の、デフォルメされた武士の姿。どこかで見たことがある徳川将軍といった感じのキャラクターが、なぜかアメリカンちっくなバイクに跨(またが)っている。

そのパラメーターは

HN:松介助
ATK:490
DEF:240
VIT:220
Buz:八代将軍

二つのCGキャラクターは舞台に降り立つと、猫型帽子のキャラは「にゃん♡」とひと声、猫ポーズをとり、デフォルメ武士はサングラスに葉巻を咥え、臨戦態勢に入る。

「兎、しっかり! 勝てるわよ」

「牡丹(ぼたん)ちゃん! うん、がんばる!」

舞台の横から応援しているのは、ゴスロリ少女の牡丹だ。

「始め!」

教師の声で、可視化されたCGキャラが動き出す。それはゲームの中から現実世界に飛び出して来たかのように、しかし立体的で滑らかな動作は生き物のように、二つのキャラクターがバーチャルバトルを始めた。

「エルフィン、GO!」

先に仕掛けたのはロリ萌えの猫耳エルフィン。兎の合図で四つ足に構えると、「にゃにゃ~ん♡」と猫声をあげて突進した。そのまま一気に間合いを詰め、空中に飛び上がり――

両手に光る鋭い爪を振り下ろした。

――が、それよりも速く、バイクのエンジンがうなりをあげる。

急発進して猫アタックをかわした八代将軍は、そのままアクセルターンで後輪を滑らせた。前輪を中心にして大型バイクを回転させ、後輪部分で猫耳エルフィンを弾き飛ばす。

「うにゃっ!」

と吹っ飛ばされた猫耳エルフィンは、それでも辛うじて態勢を保ち着地した。

普通の人間なら大けがをする衝撃だろうけど、CGのキャラには傷ひとつない。

「いや、違うぜ。パラメーターを見てみろよ」

「パラメーター?」

すけたら君は電脳キャラではなく、兎本人の頭上にある三つの数字に僕らの視線を誘導した。

「さっきまでは『VIT:240』だった体力数値が、110まで減っているぜ」

「バイクの後輪に弾かれたダメージね。あの数値がゼロになったら負けってことかしら」

イルカさんも、飲み込みが早い。

「そうだ。つまりこの試験は、ブログの人気やアクセス数をパラメーター化して、自分の分身(バズリティー)を召喚する。相手も同じようにバズリティーを召喚し、一対一でブログの総合力を競うものだ」

僕らの後ろから声を発してきたのは、ステ娘教師だった。

「バズリティーとは、Web上での大きな拡散を意味する『バズる』と、能力を意味する『アビリティー』を合わせた言葉を略したものだ」

「バズる……能力……ですか?」

「そう。我々の世界で、ブロガーだけが持つ特殊能力、それがバズリティーだ」

「僕たちにも出来るんですか?」

「このバズリティーは、お前たちに与えたパソコンにインストールされている。ブログを作成すると自動でリンクされ、個人に合わせたキャラクターがプログラムされる仕組みだ」

「マジかよ!? オレ様のキャラも出来上がってるのか?」

それを聞いたすけたら君やイルカさん、団子騎士君も、パソコンのデスクトップにある『buzzlity』というアイコンをクリックする。

僕も自分のバズリティーを開こうとしたとき――

「ああっ、兎!」

牡丹ちゃんの叫び声と共に、試験の舞台上で兎のバズリティーが倒された。

 

 

26900

第十五話 バズリティー②

兎のバズリティーのロリ猫は、舞台に突っ伏していた。その身体に傷はないが、兎本人の頭上にあるパラメーターは

『VIT:0』

と表示されている。

「そこまで!」

立ち会い教師の声が響くと、猫耳エルフィンは光の粒となって消えていった。どうやら兎は負けてしまったようだ。

相手の体力パラメーターは『VIT:100』

もともと同じくらいのパラメーターだったのに、どうして勝てなかったんだろう。

「バズリティーは数値だけで戦うのではない」

ステ娘教師が、舞台でガックリとうなだれる兎に向かって呟いた。数値だけでいったら、攻撃力以外は兎の方が優っていたのに、相手の体力は半分近くも残っている。

「たぶん、相手のオリジナリティーが強かったんだ」

修子は腕を組んで、相手のバズリティーに視線を這わせて言った。吉宗将軍のキャラは大型バイクでアクセルターンを決めると、光の粒となって消えていく。

「ほう……気付いたか」

ステ娘教師は意外そうな声を漏らした。

「パラメーターだけで勝負が決まるんじゃ、戦う前から勝敗が見えてる。同じくらいのパラメーターなのに兎が負けたのは、何か他の要因があるからだ」

「ふむ。それで?」

「パラメーターはただの数字で、数字に表れない部分があるのがブログだ。それが個人のオリジナリティーなんじゃないか?」

「ふふ。ご名答」

ニヤリと笑って、ステ娘教師は修子を見下ろした。

「ブログというのは人が作るものだ。人に個性があるように、ブログにもそれぞれ個性がある。他人にはない特異性、それがオリジナリティだ」

兎の猫耳エルフィンと、相手の八代将軍。どっちも個性があるといえばあるけれど、バイクに乗った八代将軍の方が個性が強いってことか。

「個性(オリジナリティ)は強力な武器になる、ってことか。だからパラメーターが同じくらいなのに、相手の方に余裕があったんだな」

すごいな修子、兎の戦いを見ただけでそこまで見抜いたのか。

 

 

今度は兎の仲良しさん、ゴスロリファッションの牡丹(ぼたん)が登場。相変わらず背中に羽根を生やした、中二病臭がプンプン漂う格好をしている。

牡丹の頭上に表示されたパラメーターは

HN:不知火牡丹
ATK:200
DEF:280
VIT:1390
Buz:夜風の女王

「なんだ!? あの数値は?」

ひとつだけ、飛び抜けた数値がある。VITだから体力、参照されているのは「ブックマーク(お気に入り登録)の数」だ。他の数値は大したことないけど、ブックマークだけが高いってことは……

「あれはブログのインパクトが強いのだ。だから読者は『面白いブログだから、また見に来よう』と思ってブックマークをしていく」

ステ娘教師が端的に説明してくれる。

でも、ブックマークが多いのに他の数値が高くないのは……

「記事の更新頻度が低いからだろう。どんなにブックマークをされても、記事が更新されていなければ読者は見に来ないからな」

ついでに説明してもらうと、PVはアクセス数のこと。どれだけ自分のブログを見てもらったか、だ。

そして応援ポイントとは、そのブログを応援している人が「面白かったよ、次も期待してるから頑張ってね!」という意味を込めて押してくれたボタンの数。

これらをパラメーターに換算する戦いで、ひとつだけ飛び抜けた数値があるとどうなるんだろう。

続いて、牡丹の相手にもパラメーターが表示された。

HN:ケロロン室長
ATK:1440
DEF:260
VIT:310
Buz:キングフロッガー

「あっちはATK(アクセス数)が高いな」

「奴はコンパニマル科か。あの様子だと、典型的なアクセス重視のブロガーだな」

アクセス数が高く、それ以外は普通。牡丹ちゃんとはまた違った一点特化のパラメーター。応援ポイントとブックマークが高くないのは……

「アイツのブログは、面白くないんだろ」

「そういうことだ」

修子とステ娘教師のド直球な物言いに、僕は苦笑するしかなかった。オブラートに包まない、ストレートな言い方。案外、似たもの同士なのかもしれないね。

「バズリティー、用意!」

立ち会い教師の合図に、舞台の二人がバズリティーを開放する。

牡丹のキャラクターは、漆黒のドレスを纏ったゴシック風の女性・夜風の女王。その闇のファッションは牡丹本人の衣装とそっくりで、まるで自分を成長させたような(年齢的にも、中二病的にも)風体だ。

で、相手のバズリティーは馬鹿デカイ蛙(かえる)。人の倍以上はありそうな巨大なカエルは灰色っぽい体色で、胴体部は丸く平たい形をしている。

「あれはバジェットガエルという、ペット用のカエルだな。コンパニマル科は、自分の育てているペットをバズリティーにするのだ」

と、ステ子教師が教えてくれる。コンパニマルとは、『コンパニマルアニマル(愛玩動物)』のことらしい。

でもあのカエルは「愛らしい」というよりは「キモカワイイ」だね。

牡丹のバズリティー・夜風の女王と、相手のバズリティー・巨大カエルが、舞台の中央で対峙する。

「始め!」

僕らの見守る前で、一点特化型の二人のバトルが始まった。

 

28900

第十六話 バズリティー③

バズリティーは、パラメーターと個性(オリジナリティ)の融合だ。

たとえパラメーターが相手を上回っていても、個性が弱ければ負けてしまう。そういう意味では、お互いパラメーターが別々に特化している牡丹(ぼたん)とコンパニマル科生徒のバトルは見ものだった。

バトル開始早々、牡丹は舞台上でスッと目を閉じた。

「どうしたんだ? なぜ目を閉じる?」

修子の言葉はもっともだ。あれじゃあ相手の動きが見えないじゃないか。

それを見て、先に動いたのは巨大カエル。大きくジャンプしての体当たりだ。

「牡丹ちゃん、危ない!」

舞台の外から兎が叫ぶ。相手の攻撃が見えていないんじゃ避けようがない。僕も、牡丹の回避は間に合わないだろうと思った。

ところが――

「おおっ! 避けたぞ!」

まるで踊るような身のこなしで、夜風の女王は巨大カエルの攻撃をかわした。優雅にステップを踏み、ヒラヒラと風に舞うように、巨大カエルの後ろに回り込む。

「目を閉じたままなのに、どうして――?」

牡丹のバズリティーは、牡丹本人の意思とは関係なく動いているようだった。

そうして巨大カエルの後ろをとった夜風の女王は、漆黒の霧を生み出す。

「私の夜風の女王(クイーン・オブ・ナイトストーム)は――」

牡丹がその長く揃った睫(まつげ)を伏せたまま呟くと、夜風の女王は刀を払うように両手を薙いだ。

「――何人(なんぴと)にも触れられない深淵の聖域(サンクチュアリ)」

「「思いっきり中二病!?」」

その痛々しい発言に誰もが怯んだ瞬間――真っ黒な刃が巨大カエルを襲い、疾風のような衝撃がクリティカルヒット。

「ああっ! 僕のキングフロッガー……!」

コンパニマル科生徒が悲痛に叫んだ時には、キモカワイイ愛玩動物は光の粒となって消滅していた。

「VITはゼロ……すごい、一撃だ」

まさに一瞬だった。巨大カエルの攻撃をかわした夜風の女王は、カウンターの一撃であっさりと勝負を決めてしまった。

決着の時を迎えた牡丹が、ゆっくりと瞼を開ける。僕は思わず拍手を送った。

「…………」

僕の称賛に気付いた牡丹は少し照れたような顔を見せたが、すぐにツンとした表情に戻ると、コンパニマル科生徒を一瞥して

「クックック……そなたに涅槃の浄化(カタルシス)があらんことを」

ニヤリと笑みを浮かた。そのセリフに、僕らの背筋がサーッと凍り付く。あんな言葉をためらいもなく言えるなんて、あの子の中二病はホンモノだ。

 

 

それにしても、バズリティーの戦いは爽快だった。

CGのようにリアルなキャラクターが、目の前で動き、飛び跳ね、技を繰り出す。それは対戦型ゲームのキャラを操縦しているような感覚だろうか。

でも牡丹のキャラは、自分の意志で戦っていたようにも見えたけど……。

「バズリティーは独立した思考を持っている。お前たちの作ったブログから、文字やイラスト、文体、表現方法などを読み取って、アプリがプログラムした思念体だからな」

ステ娘教師はそう言うと、左腕のノートパソコンをカタカタと弾いた。試験舞台では次の対戦が行なわれていて、修子やすけたら君たちは子供のような眼差しで見入っていた。

「思念体?」

「バズリティーは、ブロガーが操作するキャラクターではない。それだとゲームの要領で、操作テクニックが勝敗を分けてしまうからな」

あ、そうか。この試験は、ブログの内容を数値化して戦うバトル。ゲーム大会じゃなくて、ブログの総合力を競うものなんだ。

「そう。可視化されたブロガーの分身、それがバズリティーだ。もう一人の自分、といってもいい」

もう一人の……自分か。

ブロガーはブログと一心同体。心血を注いで作り上げた自分の分身が、アクセス数や応援ポイント、ブックマークを得て数値化される。

が、数字だけでは見えない部分――オリジナリティが強ければ強いほど、数字には表れない力を発揮する。単純にアクセス数や応援ポイントだけで判断するなら、試験なんて必要ないんだ。

だからオリジナリティを加えたブログ本来の強さを競うために、対戦型の試験がある。

僕はノートパソコンを開き、自分のブログを開いた。

総アクセス数、89

応援ポイント、ゼロ

ブックマーク、ゼロ

これが僕のパラメーター。

じゃあ、僕のオリジナリティは……?

その時、周りから大きな歓声が上がった。どうやら舞台上で決着がついたようだ。

ステ娘教師はそれを見届けると、しなやかな細い指でパソコンのエンターキーを叩き、

「さて、次はお前たちの番だな」

と言った。

 

30700

第十七話 キツネのお面は見抜いている

「さて、次はお前たちの番だな」

ステ娘教師は舞台に上がり、中央へ歩いていく。どうやら試験の立ち会いを務めるらしい。

「おおっ! やっとアタシの出番か!」

嬉々として目を輝かせる修子。

「よし! オレ様の活躍、見せてやるぜ!」

揚々とノートパソコンを立ち上げるすけたら君。

「私(わたくし)の美しさをご披露する時が来ましたわ!」

「ボキュのマニアックな強さは誰にも負けないんだな!」

イルカさんも団子騎士君も、声高に意気込む。

しかし僕は違った。

これまでの対戦を見て、僕のブログが太刀打ちできるとは到底思えない。僕のブログなんて、数値が見えた瞬間に笑いものにされるだろう。

そんな自信のなさから、僕は自分のブログがとても情けないものに思えてしまった。

「よし、まずは――すけとうだらEX、お前からだ」

立ち会いのステ娘教師がトップバッターに指名したのは、すけたら君。

「おっしゃ! オレ様がアダルト科の斬り込み隊長だぜ」

すけたら君は勢いよく舞台に上がり、ノートパソコンをセットする。頭上に現れたパラメーターは

HN:すけとうだらEX
ATK:310
DEF:180
VIT:390
Buz:完全無ケツのオレ様

DEF(応援ポイント)が少し低いけど、まずまず平均的。『完全無ケツのオレ様』っていうバズリティーが、すけたら君【らしい】。

相手のパラメーターも平均的で、これはいい勝負になりそうだった。

でも、僕の頭はすけたら君の勝負には向けられなかった。

たった二つだけの記事、それも挨拶程度の簡単な内容。そんな僕の『変態少女と、転生失敗した僕が書くブログ』は、「何か書かなきゃ」と思って無理やりキーボードを叩いただけのもの。

応援ポイントもブックマークもゼロっていうのが、僕のやる気の無さが伝わっている気がした。

「どうした? イツキ」

隣で観戦している修子が、僕の気持ちを察したように声を掛けてくる。が、その視線は舞台で攻防を繰り広げるすけたら君と対戦相手のバズリティーを追っていた。

「みんなこの学園に来て、たくさん記事を書いて、たくさん応援してもらってさ。すごいなって」

「イツキはどうなんだ?」

「僕は……僕にはやっぱり、向いてないのかな」

僕のブログのアクセスカウンターは、日に数回しか動かない。僕のブログを見に来る人はいない。

「それは違うぞ」

「え?」

周囲から歓声が上がり、舞台ですけたら君がガッツポーズを取った。どうやら、すけたら君が勝ったようだ。

「イツキはここに来た時と変わってないぞ。自分の膜を破れてない」

続いて、イルカさんが舞台に上がり、ステ娘教師の掛け声で対戦が始まった。

「僕が、変わってない?」

「ああ。何も変わってない。イツキは出来ないんじゃない、やらないだけなんだ」

「だって、僕にアダルトブログは無理なんだ。何も知らずにここへ来て、いきなり押し付けられても出来るわけないじゃないか」

「ほら、また。やってないのに、出来ないって」

修子はこちらを振り向こうとはしなかった。まるで僕の目を見たくないと言いたげに、視線を前に向けている。

その横顔にあるキツネのお面が、僕を睨んでいるようだった。

「よしっ、いいぞ!」「あと少しなんだな!」

すけたら君と団子騎士君が、イルカさんを応援する声が響く。二人の声援には熱が入っていた。

やがて「それまで!」っとステ娘教師が手を上げる。イルカさんも勝利をもぎ取り、次は団子騎士君が舞台へ上がる。

「イツキは、このまま諦(あきら)めて何をするんだ? 今いるところから逃げ出して、次は何が出来るんだ?」

修子の声は冷たかった。高校での三年間、ずっと一緒に過ごしてきた修子とは別人のようだった。遠慮も容赦もない言葉が、僕の頬を殴りつけているようだった。

「出来ないことを放り投げてばかりじゃ何も変わらない。イツキのやる気を見せてみろ」

「僕の……やる気?」

「ああ、そうだ。アタシのやる気は見せてやる」

と言って修子は、ようやく僕の方を向くと「ほれ」っと、自分のセーラー服のスカートを両手で捲ってみせた。

「――――っ!? なんでスカート捲るの!?」

「にししっ! 安心しろ。パンツは穿いてる」

修子は真っ白な下着を見せて僕を赤面させると、ハラリと手を離した。他の生徒たちは舞台の対戦に注目してたようで、こんな場所でスカートを捲ってみせた修子を気に留めることもなかった。

「お、どうやらエロ団子も勝ったみたいだな。それじゃ、次はアタシが行ってくる」

華奢な身体をひるがえし、修子は舞台へと上がっていった。

 

 

32600

第十八話 アタシのバズリティーは穿いてない

修子がパソコンを起動させ、そのパラメーターが映し出される。

HN:仮面修子
ATK:450
DEF:330
VIT:480
Buz:ノーパン仮面

やっぱり修子はすごい。ブログは素人だったのに、たった一か月でこれだけのパラメーターに育てている。まだ突出した数値ではないけれど、アダルト科の中では一番だ。

でもさ、バズリティーがノーパン仮面って……本人は穿いてるけど、まさかノーパンキャラが出て来るんじゃないだろうね。

対戦する相手は、エンターテイメント科の生徒。モシャモシャの長い髪の毛がお世辞にも綺麗とは言えない、オシャレっぽい眼鏡が絶妙に似合ってない、長身の男。

しかし、この生徒がどうやら有名なブロガーらしく

「疾走さん! 相手は弱いスよ、楽勝楽勝!」

「こりゃあ疾走さんの相手にならないな~」

などと取り巻きが吠えている。同じエンターテインメント科の生徒たちだろうか。

「あ……あいつは!」

「すけたら君、知ってるの?」

「あいつは『疾走くん』っていうハンドルネームの、エンターテインメントのカテゴリ内じゃあ名の知れたブロガーだ」

すけたら君は「こいつは強敵だぜ」と落ち着かない様子だった。

疾走くんは――もう何年もエンターテインメントのブログをやっていて、数人の弟子を伴って入学してきた鳴り物らしい。1年生ブロガーの中でもアクセス数や応援ポイントがずば抜けていいて、期待の新入生と言われている。

とは、すけたら君の談。

そんな有名ブロガーのパラメーターは……

HN:疾走くん
ATK:950
DEF:760
VIT:1040
Buz:伝説の咲く暇っ子

「やっぱりだ! あのパラメーターはダテじゃねえ!」

バランスの取れたブログ数値。バズリティーの名前でどんなキャラを出してくるのかは想像できないけど、数値だけ見たら修子の倍以上じゃないか。

「マズいぜ。いくらアダルト科トップの仮面ちゃんでも、あのヤローには勝てない」

「すけたら君は、疾走くんが嫌いなの?」

「ああ、アイツのブログはいけ好かねぇ。人をバカにするような事ばっかり書いてやがるからな」

「私(わたくし)もあのブロガーは好みませんわ。あの見た目同様に、記事も下劣極まりませんの」

「でも、人気はあるんだな」

イルカさんも団子騎士君も、疾走くんを知っているらしい。それだけ有名なブロガーってことか。

「疾走さん、女相手でも手加減はしないでくださいよ?」

「あんな弱そうなガキ、疾走さんなら余裕っスよ!」

取り巻きも、感じのいいタイプじゃなさそうだ。これはぜひとも修子に勝ってもらいたいところだけど……。

「バズリティー用意!」

ステ娘教師の合図で、最初にバズリティーを出現させたのは疾走くん。

「出た、疾走さんのバズリティー!」

「これが伝説の咲く暇っ子! 今日も萌え可愛いっス!」

そのバズリティーは、【アニメの女の子キャラの抱き枕を二つ持った、汚いオッサン】。

「き、気持ち悪りぃ……」

「虫唾(むしず)が走りますわ」

「ボキュは好きなんだな、咲子(さくこ)しゃんと暇子(ひまこ)しゃん」

どうやら有名なアニメのキャラクターらしい、等身大の女の子キャラが描かれた抱き枕を両手に抱え、頬ずりをする汚いオッサン、もとい疾走くんのバズリティー。

「バズリティーも本人も、どっちも汚いオッサンだな」

相変わらずオブラートに包まない言葉で「汚いオッサン」と一刀両断する修子。まあ、僕もそう思うよ。言わないけど。

「はっはっは! 口はだけ達者なチビだな。パラメーターをよく見ろ、お前なんか5秒で片付けてやるぜ」

と、疾走くんは余裕の表情だ。たしかに、このパラメーターの差はバズリティーの個性(オリジナリティ)で追いつくような数字には見えない。

しかし修子は「ふんっ」と鼻を鳴らすと、キツネのお面をクルリと前に回した。

「アンタみたいなやられ専門の雑魚(チンカス)、アタシが2秒で片付けてやるさ」

お面の中からくぐもった声を出し、左腕のノートパソコンを構えた。いよいよ、修子のバズリティーが出る。

「イツキ、悪いな。【アタシのバズリティーは穿いてないぞ】」

舞台上に光が集まり、人の形が生まれる。そのまばゆい光に、僕らは目を細めた。

光のシルエットは黒い布を纏い、やがて大きなマントに身を包んだ男の姿が現れた。

青みがかった髪の毛にキツネのお面、左胸には死肉のような色をした花のコサージュ。口元から膝下まで覆うマントから、素足が見えている。

お面の男は舞台に降り立つと、バサっとマントを捲り、そのまま腕を組んだ。

「「……裸ぁ!?」」

それを見ていた全員が叫ぶ。

そう。マントの中身は、全裸だった。

シャツもズボンも靴下も、もちろん【パンツも穿いてない】全裸の男。股間からぶら下がる『モノ』ですら堂々たるその姿に、イルカさんは思わず「ヒィッ」っと両手で目を覆う。指の隙間から見えているのは内緒だろうね。

「……こりゃあ、変態だ」

すけたら君が呆然と呟く。

「ずっしり重たい茄子みたいなんだな」

団子騎士君が、何を何に例えているのか分からないことを言う。

「目が……目がぁぁぁ!」

誰かの悲痛な叫び声が響く。

修子のバズリティは、全裸にマント男という変態的なバズリティーだった。

会場全体が静まり返り、

「ふ………ふははははっ!」

それから静寂を破ったのは疾走くんだった。

「なんだ、そのバズリティーは。裸マントの変態男とは、頭の悪そうなお前にピッタリだ」

「汚いオッサンと一緒にしないでほしいな」

「……んだとテメェ! 女だからって容赦しねぇぞ!?」

歯をギリギリと鳴らして苛立つ疾走くん。修子の挑発でカッとなっているのは、血管が浮き出た顔を見れば一目瞭然だ。

「いいぞ。本気で来い。アタシには勝てないけどな」

「……上等だ。おい、そこの教師、さっさと始めようぜ」

立ち会いを務めるステ娘教師が一瞬、ピクッと反応した。疾走くんのあの言い方にイラっとしたんだろう――と感づいたのは、僕らアダルト科の生徒たち。

しかしステ娘教師は構わず右手を上げると

「始め!」

と開始の合図を放った。

 

35100

第十九話 変態的、服脱がせ

パラメーターの数値が倍以上もある相手とのバトルは……

疾走くんのバズリティー、伝説の咲く暇っ子と

修子のバズリティー、ノーパン仮面。

「行くぜ!」

先に仕掛けたのは、汚いオッサン・疾走くんの、汚いオッサンみたいなバズリティー。見た目に似合わない俊敏さで地を蹴ると、両手に持つアニメの抱き枕を振りかぶって突進した。

「速いぞ!」

さすがにあのパラメーターはダテじゃない。攻撃力を表す数値は、移動速度にも影響しているのだろうか。一気に間合いを詰めると、修子の変態バズリティー……もとい、ノーパン仮面を捉えようとした。

が、修子のバズリティーは動かない。

腕を組んだまま、余裕の笑みさえ浮かべているように見える。

「もらったぁ!」

完璧なタイミングで、二つの抱き枕がノーパン仮面の頭上から振り下ろされた瞬間――

「……遅い」

低く……重々しい声を発すると、ノーパン仮面は半歩さがり、紙一重で攻撃をかわしていた。

疾走くんの「ちっ!」という声で、バズリティーが再び抱き枕を振り上げる。今度はグルリと回して、挟み込むように二撃目を放った。

ここまでが、約1秒。

そして次の1秒が過ぎる頃には、二人の決着がついていた。

「その服――アタシが剥いてやる」

そう修子が言うと、ノーパン仮面がマントを翻(ひるがえ)し前に出た。なんと、抱き枕の挟撃に向かって突っ込んだのだ。

二人のバズリティーが交錯したかに見えた次の瞬間……

ノーパン仮面は抱き枕の攻撃をすり抜けて、相手のバズリティーの後ろまで駆け抜けていた。交錯してぶつかるかと思われたが、どうやってすり抜けたのか……その動きの片鱗すら見せずに、手に衣服を握りしめていた。

「え……? 何が……起こった?」

疾走くんのバズリティー、伝説の咲く暇っ子は、身に着けていた衣服をすべて剥ぎ取られて、全裸となっていた。

開始から、たったの2秒。

何がどうなったのか、誰にも見えなかった。が、観戦していた全員が注目したのは

『VIT:0』

疾走くんの頭上に表示されているパラメーターの『VIT』がゼロになっているところ。あの一瞬で、二人のバズリティーが交錯した瞬間で、疾走くんのバズリティーは服を剥かれて立ち尽くしていた。

ただそれだけで、たったの一撃で、相手のVITを削り取った。

「そ、そんな……バカな……」

抱き枕だけを持ち、全裸になった疾走くんのバズリティーが、光の粒となって消えていく。

「約束どおり2秒。アタシの勝ちだな」

キツネのお面をクルリと回し、「にししっ」と笑う修子。バズリティーのノーパン仮面は、オッサンの着ていた衣服を天高く放り投げると、黒いマントに身を包み勝利のポーズを飾った。

左胸には、死肉のような色をした花のコサージュ。

それを人差し指と中指で摘まむと、まるでどこかの貴族のように自分の顔に近づける。空を仰ぎ、クールに花の香りを嗅いだかと思うと突然、膝からガクッと崩れ落ちた。

「あの花、ラフレシアじゃね?」

すけたら君が遠目で花の名前を言い当てると、ノーパン仮面は白い光の粒となって消えていった。たしかラフレシアって、すごく臭い花だよね。

相手を秒殺したノーパン変態バズリティーは、ギャグのように消えていったのだった。

「……そこまで」

ため息まじりで終了の合図を送ったステ娘教師は、舞台の外で観戦していたエンターテインメント科のお供二人に「早くコイツを連れていけ」と命じた。

疾走くんは呆然としてしまい、バトルが終了したというのに動けずにいたからだ。

「疾走さん!」

「大丈夫ですか!?」

お供の二人に連れられ、敗者となった疾走くんは舞台から姿を消す。

そんな後姿を見届けてから、修子も舞台を下りてくる。

「修子! すごいよ!」

僕のところに戻ってきた修子は、すけたら君たちに囲まれ大いに祝福された。そりゃそうだよね、あんな相手に勝ったんだから。

「それにしても、パラメーターが倍以上もある相手に勝っちゃうなんてな。仮面ちゃんの個性(オリジナリティ)は別格ってことか?」

そう、僕らが一番驚いたのはそこ。それに修子は、戦う前から「勝てる」って分かってたみたいだし。

「アタシは自分のブログが面白いと思ってるからな。負けるはずがないのは分かってた」

「にししっ」と、例の笑いをした修子は、「当然だ」と言わんばかりだった。

自分のブログが面白いから――か。

「どうだ、イツキ。アタシのやる気は見えたか?」

と言って修子が左腕を伸ばしてくる。そのノートパソコンには、修子のブログ『ノーパン仮面の変態ブログ』が映っていた。

「アタシは本気でやった。ブログも本気で書いてる。アタシのやる気がここにある」

「うん。修子のやる気、見えたよ」

「次はイツキの番だ。イツキの中にも『やる気』がある。アタシには見えてるけど、そのスイッチには手が届かないんだ」

「僕が、自分で押さなきゃいけないんだね」

僕は修子のバトルを見て、素直に感動した。修子は自分が本気でやってきたことに自信を持って、自分のブログに自信を持って、相手を恐れなかった。

それはきっと、修子の中でスイッチが入ってるからなんだ。

対して僕は、出来るか出来ないかよりも、やるかやらないかで止まっていた。

自分でスイッチを押すこともしないで、ただ立ち止まっていた。

修子はそれに気付いてて、僕が自分で押さなきゃいけないスイッチの在処を教えてくれた。

「次、モモイロイツキ!」

舞台上から、ステ娘教師が僕を呼ぶ。

僕はノートパソコンを開いて舞台に上がると、自分のブログ『変態少女と、転生失敗した僕が書くブログ』のログインボタンにカーソルを合わせた。

僕のやる気スイッチは――ここにある。

 

 

37300

第二十話 ドッグマスターあっくん

僕は学園に入学してから、ずっと考えていたことがあった。この学園には「卒業しなければ帰れない」校則があって、でも言い方を変えれば「卒業すれば帰れるんだ」って思ってた。

高校の時もそうだった。

僕は勉強が嫌いだし、学校だって好きじゃない。ただ学校には友達がいて、修子がいて、そんな仲間と過ごす時間は好きだった。

いくらテストの出来なくても、成績が悪くても、学校に行きさえすれば卒業できた。

「だから、何もしなくても卒業できればいい」

この学園だってそうだ。3年履修の専門学校だから、3年間が過ぎれば卒業して帰ることができる。

けれど、修子はこう言った。

――イツキは何も変わってないぞ

――イツキは出来ないんじゃない、やらないだけなんだ

――このまま諦(あきら)めて何をするんだ? 今いるところから逃げ出して、次は何が出来るんだ?

そう。このままじゃ僕は、何も変わらないんだ。仮に、卒業して現実世界に戻ったとしても、きっと『何もしない日々』を繰り返してしまう。

「だから僕は、ここでスイッチを入れなきゃいけないんだ」

僕はモニターに映るアクセスカウンターを見た。

アクセス数:89
応援ポイント:0
ブックマーク:0

ブログの数値は何も変わってない。今朝からずっと止まったままだ。

でも、僕は前に進もうと思う。

もう立ち止まるのはやめようと思う。

修子の言うとおり、今やらなければ、後になってもやらないままだ。

修子は本気でブログを書いて、自分よりも格上の相手に勝って、僕に示してくれた。

だから今度は僕がやる気を見せる番だ。

舞台の外から、修子が「グー」を差し出している。「行け」って、合図だ。でもその「グー」は、人差し指と中指の間から、親指が突き抜けちゃってるけどね。

うん、行ってくるよ。

出来るか出来ないか――

勝つか負けるか――

そんなことはどうでもいい。

僕は【ちゃんとしたグー】を修子に向けた。力強く。

その時、舞台の周りから「わっ!」と歓声が響いた。

「きゃーー! ドッグマスターあっくんよ!」

「コンパニマル科のあっくんよ! カッコイイ♡」

「おおっ! あれが噂の1年生エースか!」

特に女の子の声が多いみたいだ。その声援を浴びて舞台に上がったのは、黒髪で涼し気な目をしたイケメン生徒だった。

「……コンパニマル科の『ドッグマスターあっくん』です。よろしく」

その丁寧な自己紹介に釣られて、僕も

「アダルト科のモモイロイツキです」

ペコリと頭を下げる。

「アダルト科……ということは、ステ娘教師のクラスですね。羨ましい、ボクもステ娘教師の授業を受けたくてこの学園に入学したんですよ」

「そうなんですか?」

「ええ。でもステ娘教師はアダルト科でしか授業をしないみたいです。僕もコンパニマルでしかブログを書けないので、仕方なく」

そう言ってあっくんは、立ち会いを務めるステ娘教師をチラっと見た。

「私はアダルト専門でな。他のカテゴリには興味がないのだ」

ふふ……っと笑う、ステ娘教師。この人はやっぱり有名なブロガーなんだね。カテゴリの違う人にも知られているんだ。

「では、始めましょう。ボクはあまりお喋りが得意じゃないので」

あっくんは足を少しだけ開くと、ノートパソコンを立ち上げた。その頭上に表示されたパラメーターは

HN:ドッグマスターあっくん
ATK:2110
DEF:1750
VIT:1860
Buz:番猋(ばんひょう)のサーベラス

「な、なんだあのパラメーターは!?」

他の生徒とは比べ物にならない数値に、すけたら君が驚愕の声を上げる。もちろん僕も、自分の目を疑ってしまったほどだった。

すべての数値が4桁、それもバランスが取れている。周囲からも「おおおっ!」というどよめきが起こった。

「ボクのパラメーターは、まだブログ王国(キングダム)でランカーになれる数値ではありませんが、これが今のボクにとっての理論値です」

理論値――つまり、あっくんにとっての最大数値ってことだ。

「あっくんは分析能力に長けた、データ重視のブロガーって話だ。その才能を買われて、すでにコンパニマル科の次期エースと言われているらしいぜ」

すけたら君は本当に何でも知ってる。

白雪学園で最大のカテゴリ、コンパニマル科での次期エースか。すごい人が僕の相手になっちゃったね。

この対戦を決めたのはステ娘教師だったりして。もしかしたら、僕のスイッチが入っていないのを見抜いてて、こんな凄い相手を当ててきたのかもしれない。

でも、僕は不思議と落ち着いていた。あんなパラメーターを持っている相手に勝てるわけない、負けて当然、そんな気持ちはある。だけど、やってみる前から「出来ない」なんて――

「もう言わないよ」

僕は『変態少女と、転生失敗した僕が書くブログ』のログインボタンをクリックする。

僕の頭上に、僕のパラメーターが映し出される。

HN:モモイロイツキ
ATK:10
DEF:10
VIT:10
Buz:――

はは……ひどい数値だ。自分でも情けないね。

周囲の生徒たちが、声を殺して笑っているのが聞こえてくる。

でも見ててね、修子。

僕は、自分でスイッチを押したよ。

 

 

39300

第二十一話 バズリティー転送

「バズリティー、用意!」

ステ娘教師の合図で、あっくんがバズリティーを起動させる。

あっくんの前に出て来たのは、三つ首の獰猛な犬。その巨大な躯体、竜のような尾、蛇のようなたてがみは、犬というよりはまるで獅子だ!

「ボクのバズリティーは、番猋(ばんひょう)のサーベラス。冥界の番犬・ケルベロスと言えば、聞いたことがあるんじゃないかな」

「ケルベロス!?」

それはギリシア神話にある犬の怪物だ。

「おい、あれが『ドッグ』なのか?」

修子は呆れ顔でそう呟いた。ハンドルネームが『ドッグマスターあっくん』だから、犬使いではあるんだろうけどさ。ケルベロスは犬(ドッグ)って呼んでいいのだろうか。そこは僕も疑問。

「モモイロくん、次は君がバズリティーを出す番だ」

あっくんは、無機質な声でそう言った。僕のパラメーターを見ても嘲笑することはなかったけど、あまり楽しそうに見えないのは――こんなに数値差があるから仕方ないよね。

僕はパソコンのデスクトップにある『buzzlity』をクリックした。これで僕のブログとリンクしたバズリティーが……

「あれ、出てこない?」

バズリティーが発動する時は、立体CG光線(グラフィックナビゲーション)が走る。三次元の映像生成(レンダリング)でCGキャラクターを可視化させるはずが

『システムエラー(Buzz―ErrorCode 0003)』

僕のパソコンには見たことがないエラーコードが表示されてしまった。

「ちょ、ちょっと。どうして!?」

うろたえる僕に、「?」という顔をしているあっくん。いや、僕が「???」なんですけど!?

「あ、しまった。私のパソコンだからロックがかかっちゃうんだ」

ん? ……この聞き覚えのある声は――

「完全に初期化(リカバリー)できてなかったみたいですね。失敗☆テヘっ」

このお馬鹿でドジっ子なセリフは――

舞台の外で頭をコツン☆ とカワイく笑っているのは、自称・学園ナビゲーターのコインちゃんだ!

今までどこに? っていうか、どうしてこんなところに? てか、「私のパソコンでロックがかかって初期化できてない」とかドユコトーー!?

こんな大事な場面で何をやっちゃったの?

サーッと、血の気が引く音が聞こえた。ヨワヨワなパラメーターで、バズリティーも出せないなんて――きっと僕の顔は青ざめているに違いない。

「バズリティーが出ないんじゃ試験ができませんね。こうなったら裏技です」

コインちゃんは自分のパソコンをカタカタと叩くと、今度は僕のパソコンモニターに何かが映った。

『У’sモデルからバズリティー転送中』

……

……

……

ほんの数秒で、プログレスバー(ダスクの進捗を表すバー)が

『受信完了』

を告げる。

次の瞬間――

目の前に立体CG光線(グラフィックナビゲーション)が走り、三次元の映像生成(レンダリング)が人の形を形成していく。

光彩を帯びて可視化された人のシルエットは、やがて――

どこかの同人誌イベントから抜け出してきたようなフリフリのメイドさんみたいな服装。控えめにいえばコスプレ、大袈裟にいってもコスプレな、つまりはコインちゃんの姿になった。

ATK:10
DEF:10
VIT:10
Buz:美少女ナビゲーター

僕の頭上にあるパラメーターにも、バズリティーが『【美少女】ナビゲーター』と映っている。

「不具合は後で直しておきますから、今回はこれで勘弁してくださいね~」

この声は、まさしくコインちゃん。

「バズリティー転送ってまさか……自分でバズリティーになっちゃったの!?」

「えへへ、私にはいろいろと特権があるので~」

その手には、キラキラのハートが輝く魔法のステッキ。コインちゃんが手元の電源をオンすると、ハートのイルミネーションがちかちかと点灯し始めた。

……子供のおもちゃだよね、それ。

「カワイくないですかぁ?」

……だから、女児向けのアイテムだよね、それ。

立ち会いのステ娘教師は何ともいえないような表情を浮かべ「いいのか?」と問いかけるが、

「さあ、私がモモイロさんのバズリティーですよ~。どこからでもかかってきなさい☆」

やる気満々のコインちゃんは、プリティーでキュアキュアなポーズを決めると、魔法のステッキを番猋(ばんひょう)のサーベラスに向けた。

 

 

41000

第二十二話 ピンクシャイニング・トルネード・サンシャイン・フォーメーションアルファ・パッショングランド・シャイニートール・ファンタスティックルージュ・ハートアタック!

バズリティーのエラーだか不具合だかバグだか知らないけど、僕のバズリティーは出てこなかった。

その代わりに、ドッグマスターあっくんと対戦するの僕のバズリティーはコインちゃん。自分で「美少女」と名乗ってしまう学園ナビゲーターだ。

「始め!」

ステ娘教師の合図で、コインちゃんが電飾きらめく魔法のステッキをかざす。そうして、

「はあぁぁぁぁぁっ!」

っと、可愛らしいけど気合の入った、でもやっぱり可愛いだけの掛け声を上げ

「輝け! コイキュア・ピンクハートウェイブ!」

何か必殺技のようなセリフを叫んだ。

どこかで聞いたことのあるような技名なのは気のせいかな。と、固唾を飲んで見守る僕。

ドッグマスターあっくんは、一瞬構えるような体勢を取るが……………………………………

「何も出ないじゃないか」

ジト目の修子が言うとおり、コインちゃんの攻撃はハートの電飾が虚しく光るだけだった。コイキュア・ピンクハートウェイブが放ったのは、ブリザードのような冷えた空気。

で、その冷気に当てられて凍りついたのは僕。

それを見たあっくんは「フッ」と息を吐き、すぐさま攻撃に転じる。

「サーベラス!」

マスターの命令で、番猋(ばんひょう)のサーベラスが駆け出した。その巨体は、犬というよりも獅子。屈強な四肢で勢いよく舞台を蹴ると、三つ首を震わせながら巨躯を駆り、獰猛な牙を剥き出してコインちゃんに襲い掛かった。

「危ない!」

僕の叫び声と同時にコインちゃんが飛び上がり、サーベラスの突進を難なくかわす。

すごい――なんて高く飛び上がるんだ!

サーベラスが三つ首を振り上げ、その行方(ゆくえ)を睨む。と同時に、宙に浮いたコインちゃんは魔法のステッキを構えた。また魔法【ごっこ】をやるのか?

「今度はマジメにやっちゃうよ~☆」

電飾が彩るおもちゃのステッキを胸に当てると、コインちゃんの身体がピンク色の光に包まれる。

これは……さっきと違うぞ!?

淡い光を纏ったコインちゃんは、まるで魔法少女のようだ。今度こそ、あそこから魔法を使うのか?

「サーベラス、地獄の火炎(ヘルファイアー)だ!」

それに対してあっくんが命ずる。三つ首の番猋(ばんひょう)が、鋭い牙の隙間から赤黒い炎を漏らし――

「グヴァーーー!」

と咆哮すると、三頭それぞれが猛烈な炎を吐いた。あんな炎を喰らったら一発で黒コゲだ!

しかしコインちゃんは慌てることなく魔法のステッキを構え

「コイキュア! ピンクシャイニング・トルネード・サンシャイン・フォーメーションアルファ……」

またしても、どこかで聞いたことのあるような技名をとことんミックスした、長ったらしいセリフを唱え――

「パッショングランド・シャイニートール・ファンタスティックルージュ……あひゃーーー!」

唱え終わる前に、サーベラスの炎に飲み込まれてしまった。

――セリフが長いんだよっ!

結局、コインちゃんの魔法は何も発動しないまま、地獄の火炎(ヘルファイアー)の直撃を喰らい、勢いよく舞台に落下。

辛うじて着地したコインちゃんだが、その姿は文字どおりの真っ黒コゲ。ペタンと尻もちをつくと、両目をグルグルにしたまま光の粒となって消えてしまった。

僕のパラメーターは『VIT:0』

ブログのブックマークがゼロの僕に最低限与えられた『VIT:10』は、番猋(ばんひょう)のサーベラスが放った業火に焼かれて一瞬で尽きてしまった。

オーバーキルもいいところだ。

「そこまで」

落ち着いた声で、ステ娘教師が終了の合図を告げる。

その合図に反応してか、サーベラスはゆっくりとあっくんの元に歩いていくと、その巨体を屈めてすり寄った。

まるで犬が主人に甘えるように三つの頭を押し付けている姿は、飼い慣れた愛玩動物(コンパニマル)そのもの。すり寄る頭をあっくんが優しく撫でると、サーベラスもまた光の粒となって消えていった。

そうしてバズリティーを収めたあっくんは、パソコンのモニターを眺めると

「ステ娘教師」

その切れ長な目でステ娘教師を見据えた。

「今回はあなたに頼まれたので仕方ありませんが、次からはこういう相手はお断りしますよ」

「……そうか」

「こんな、ボクにとって得のない試験は想定外です。報酬のリンクシステムが得られないなんて、ボクのブログ運営には無用のバトルでしたよ」

まるで吐き捨てるように言い放つと、さっさと舞台を降りてしまった。

――得がない? リンクシステム?

あっくんの言っていることはよく分からなかったけど、パラメーターの低い僕を相手にしたことで気を悪くしたのだろうか。勝負というよりは、僕のバズリティー(コインちゃん)が一方的にやられただけだから。

何ともいえない引け目を感じながら舞台を降りた僕に、修子が近寄ってきた。

「イツキ、よくやったな」

「はは……まるで勝負にならなかったけどね」

「いや、勝ち負けじゃない。イツキは初めて、自分で前に進んだんだ。アタシには見えたぞ、イツキのやる気が」

興奮気味に喋る修子から、昂(たかぶ)った想いが伝わってくる。僕は初めて修子に褒められたような気がして、少し照れ臭かった。

「だからアイツの言うことは気にするな。あれはきっと、損得で物事を考える人間だ」

そう言って修子は、あっくんの後ろ姿に冷ややかな視線を向ける。

「でもさ……同じ新入生で1年生なのに、あのパラメーターはすごいよね。バズリティーもとんでもない強さだったし」

これはドッグマスターあっくんがどういう人間かというよりも、僕の素直な感想だ。あれだけのパラメーター、あれだけのバズリティーを持つには、どれだけ本気でブログに取り組んでいるんだろう。

しかし修子は、あっくんの態度が相当気に食わなかった様子だった。バカにされたのは僕なんだけどね。

「たしかにアイツはなかなかのブロガーだ。けどな――」

試験舞台の向こう側。

修子は、他の生徒たちに紛れていくあっくんを見やり

「――あの程度、アタシが一撃で剥いてやるさ」

ニヤリと笑ってみせた。

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