オリジナル小説 魔法少女まどか☆マギカ

魔法少女まどか☆マギカ 別編~再臨の物語~(第2部 最終話)

投稿日:2018年6月11日 更新日:

再臨ロゴ2

 

マミの右頭部に飾り付けられた花型の髪留め、その中央にあるのはオレンジ色のソウルジェム。魔法少女の魂の宝珠が今、穢れの限界を超えた。黒く美しい揺らめきを溢れさせ、闇の宝珠であるグリーフシードに姿を変える。

マミは絶対領域を纏ったままリボンの足場を渡り、くるみの元へ歩き出した。

「くるみちゃん、長くつらい日々だったでしょう。でも、絶望の螺旋階段を上るのはこれで終わりよ」

渾身の魔力で押し潰そうとするくるみの両手を受けたまま、マミはゆっくりと歩く。リボンの足場は網目状の道となり、マミとくるみの間を繋いでいた。

『マミ、何をするんだ! 魔力を止めろ! 変身を解いて逃げるんだ!』

杏子の思念が激しい叫びをあげた。

「佐倉さん、ごめんなさいね。約束してたアップルパイ、作ってあげられなくなっちゃったわね」

マミは思い出したかのように、杏子との約束が反故になってしまうことを謝った。数日前、六千石町に向かう杏子と交わした言葉

――私の作ったアップルパイ、食べてみたいと思わない?

――仕方ないから、アップルパイで手を打つよ

グリーフシードの件が片付いたら、アップルパイをご馳走する約束をしていた。

『アップルパイなんかいいんだ! あれは釣られたフリをしただけなんだって!』

「ふふ、そういうところはまだまだ子供っぽいのよね。意地っ張りで素直じゃないんだから」

マミはこんな状況でも嬉しそうに笑みを浮かべていた。

『いつだってそうやってお姉さんぶって、マミだって背負い過ぎなんだよ! 自分の命を捨ててまで他人を救おうなんて、アンタは神サマなんかじゃないだぞ!』

「そうね、私は神様じゃない。でも、もし神様がいるんだとしたら、お礼を言いたいわ。あなたと、みんなに会えてありがとうって」

『ダメだ! マミ、やめろ!』

マミは光の壁、絶対領域を解いた。くるみの両手を阻んでいた結界がなくなり、黒い巨大な手はそのままマミの身体に絡まった。尖った指がマミの身体に突き刺さり、背中や足から鮮血がほとばしる。が、マミは顔色ひとつ変えず、琥珀色の瞳でくるみをしっかりと見た。艶やかな両眼は透き通るほど美しく、まるで自分の子供を見守るような優しさと穏やかさに溢れていた。

「くるみちゃん、あの時の笑顔には悲しみも絶望も無かったわよね」

マミとくるみが出会ったオフィス街の小さな公園。幼い笑顔を浮かべ、マミの隣に座ったくるみは穢れに満ちた少女の顔ではなかった。もしかしたら心の奥底では、永遠に滅びぬ魔力の終焉を願い、それをマミに託したかったのか。マミの放つ優しい魔力の波動を感じ取り、救いを求める希望の笑顔だったのか。

「もう一度、あの笑顔を見せてみない? 悲しみも絶望もない、あなたの本当の姿を」

マミのソウルジェムが黒い光を放ち、穢れの解放が始まった。と同時に、螺旋階段の上から眩しい光明が差す。マミのグリーフシードに反応して今ここに、天照らす円環の理が訪れた。魔法少女の穢れを浄化し、悲しみや憎しみのない世界へ導く、漆黒のドレスを纏いしこの世の理。くるみの放っていた穢れのモヤは、円環の理が照らす後光で光の粒となって消えていく。辺りは優しく暖かな光に包まれ、市松模様の部屋は螺旋階段だけを残し、光の空間となった。

螺旋階段の上に立つ円環の理は、まるで階段の頂上に待つ安息の終着点のようだった。

「これが、私の最後の魔力よ」

と言ってマミは胸元を結ぶ1本のリボンをスルリと解き、くるみに向かって伸ばした。リボンの先はくるみの身体と繋がり、柔らかなオレンジ色に発光した。

「私の魔法は命を繋ぐリボン。この最後の1本で、私とあなたの命は繋がったわ」

『マミ、やっぱり……アイツと一緒に死ぬ気だったんだな』

「いいえ、違うの。私もくるみちゃんも死なないわ。円環の理に導かれ、悲しみと絶望の無い世界に上っていくのよ」

穢れの溢れたマミのグリーフシードが、円環の理によって救済される。そしてマミと生命の繋がったくるみもまた、救済の力を全身に受けて膨大な穢れが吸い上げられた。恨み・嫉み・悲しみ・怨嗟・憎悪・呪い、すべての負の感情を乗せた黒い絶望の澱が、円環の理によって浄化されていく。

マミの身体が光の粒に包まれ、ゆっくりと身体が透き通っていった。マミと生命の繋がったくるみの身体も、黒き絶望の衣を脱ぎ去り、無限の因果を断ち切り、元の少女の姿に戻る。あまり長くない髪の毛をふたつに結んだ、マミと出会った頃の幼い顔がそこにあった。

「くるみちゃん、その姿……」

すべての魔力を失い、魔法少女としての能力が消えたはずだが、くるみはあの時と変わらず幼い姿のままだった。あまり長くない黒髪をツインテールに結んだ少女のままだった。

「キュゥべえと契約した時から、わたしの時は止まったままなの」

「そうだったのね。でも、これで悲しみや絶望は解き放たれたわ。あなたの時は動き出すわよ」

くるみはニコっと笑った。マミと同じように光の粒に包まれ、身体がゆっくりと透き通っていくくるみの顔には、出会った頃の無邪気な笑顔があった。

階段の頂上から、優しい光がいざなう。ふたりは手を繋ぎ、螺旋階段に降り立った。いびつなうねりでそびえる市松模様の階段は、円環の理に照らされ純白の輝きを放った。それはまるで光の階段のようだった。マミとくるみは手を繋いだまま、光の階段を上り始めた。

(なんだか、懐かしい人に会える気がする)

階段の頂上には、黒きドレスの円環の理が見下ろしていた。

『行っちまうのか?』

杏子は静かに問いかけた。

「ええ。くるみちゃんの絶望は救われたわ。終わらない始まりは、本当の終わりを迎えたの」

『バカ野郎……弱い者のためだからって、自分まで消えちまってどうするんだよ……』

「ごめんなさいね。でも、これが私。本当の私なの』

『アンタは最後まで、守りたいものを守り通すんだよな。わかってるよ、巴マミは……そういう魔法少女だもんな』

「佐倉さん、あなたは最高の弟子で大切なお友達よ。ありがとう」

『さよならは言わないからな』

「ええ」

最後の言葉を交わすと、マミとくるみは一瞬の眩い光と共に、螺旋階段の上へと消えていった。ふたりの魔法少女が、円環の理によって救済された。

その姿を、螺旋階段の下から見上げる少女がいたことは誰も知らなかった。

 

それから間もなく、佐倉杏子は目を覚ました。そこはほむらの家だった。

「きょ、杏子ちゃん!」

ゆう子が驚いたように気付き駆け寄ってきた。マミのソウルジェムに取り込まれていた杏子は、マミの消滅によってほむらの家に空間転移されたのだった。ソウルジェムの中という異空間から抜け出た先がほむらの家だったのは、巴マミの意思か 、あるいは……。

杏子は目を開けるとゆっくりと身体を起こし、しばらく黙ってから

「アイツは、ひとりで行っちまったんだ。ホント、大バカ野郎だ」

と呟いた。ゆう子が傍で何か言っていたが、杏子の耳には届いていなかった。ほむらはソファに腰掛けたまま、黙って杏子の言葉を聞いていた。

「ったく、どこまでもマミはマミだったんだ。アイツは、本物の魔法少女だったんだ」

顔を伏せ、垂れ下がった前髪で隠れた瞳から、ひと粒の涙が零れ落ちた。杏子の左手には、ソウルジェムの付いていない花型の髪留めが握られていた。

 

第2部 完

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