オリジナル小説 魔法少女まどか☆マギカ

【オリジナル小説】魔法少女まどか☆マギカ[別編]~再臨の物語~(第1部12話)

投稿日:2017年11月15日 更新日:

 

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>>>魔法少女まどか☆マギカ 別編 再臨の物語(1-1)

 

キュゥべえの言葉ですぐに動いたのは暁美ほむらだった。

ほむらは目にも止まらぬ速さで無花果の大樹の中心、ゆう子の前に行くと、左腕に付けていた盾を幹の隙間からグリーフシードに向けて投げ入れた。

盾は球体に形を変えてグリーフシードを包み込み、内側に施された時計の内部装置のようなものが左回りに回転し始めた。

回転は一気に加速し、時間を超越する。

ほむらは時間操作の魔法を失ってはいなかった。使い魔に潰されそうになった杏子を一度助けたのは、やはり時を止めての動きだった。

だが今度の時間操作はほむらもゆう子も、周囲が時間の影響を受けず、盾に包まれたグリーフシードのみが時間を遡っていった。

絶望によってグリーフシードへと姿を変える前のソウルジェムに戻るまで、時が遡る。

遡行は一瞬で済んだ。

ほんの一瞬で、何日分も何か月分もの時を遡り、グリーフシードはソウルジェムへと変化したのだ。

ソウルジェムのかつての所有者、つまりこの魂の宝珠を拠りどころとした魔法少女は、すでにこの世にいない。

今のこの世界、この時間軸では存在するはずがない。

グリーフシードとなった時点で魔女となり、何処かの魔法少女に狩られたか、円環の理によって消滅しているからだ。だから今このソウルジェムは、宿主のいない空っぽの魂の受け皿ということになる。

そこへキュゥべえがゆう子の願いと引き換えに、魂とソウルジェムの運命線を繋いだ。

ソウルジェムは魂と結合し、淡い赤紫色に輝き出す。

生命力に溢れた、命の輝き。

希望に満ちた、温かい輝き。

情愛に豊かな、優しい輝き。

その美しい輝きがゆう子の掌に渡ると、ソウルジェムは持ち主の魂と同調したシンボルへと形を成していく。

淡い赤紫色の卵型のようなソウルジェムは白い台座に納まり、頂点には魔法少女を識別する固有のマークが象られる。

杏子は楕円、マミは花型、ほむらは菱型、そしてゆう子のソウルジェムには、大小ふたつの楕円を重ねたようなダブルリング型があった。

ソウルジェムの形成と共に、ゆう子は魔法少女へと姿を変える。

胸元には大きくふたつに割れた赤紫色のリボン、白ベースに赤い縦ラインの入った燕尾服のようなジャケット、赤紫色のショートパンツ、黒いニーソックスに赤紫色のロングブーツ、両耳には大小それぞれの丸いイヤリング

杏子とよく似たその装いに、腰の後ろに短い棒のようなものを装着している。

ゆう子はゆっくりと目を開けると

「杏子ちゃん、いま助けるね」

と声を出し、次の瞬間には使い魔たちに押し潰されている杏子とマミの真ん前に現れた。

誰もその動きを見えなかった。

というより、無花果の大樹の中に囚われていたような状態だったのが、どうやって一瞬で抜け出てきたのか。

身動きの取れなくなっている杏子もマミも、ゆう子を凝視していたはずのほむらとキュゥべえも――気付いた時には、ゆう子が何匹かの使い魔を短い棒のようなもので打ち払っていた。

使い魔たちもゆう子の接近にやっと気付き、押し潰していた杏子とマミから離れてゆう子と臨戦態勢をとり
一気に体当たりで地面に押し潰してきた。

誰もが

「あ!」

と思った瞬間、ゆう子は使い魔たちの真上から短い棒を振り下ろし、またも使い魔を数匹打ちのめす。

ゆう子が持つ短い棒のようなものは、身の丈半分ほどの槍、短槍だった。

この短槍を使った攻撃動作は特に突出した威力があるわけではなく、むしろまだ扱いに慣れていない素人のような攻撃だが、あまりに早すぎる移動速度は杏子やマミの比ではなかった。

例えるなら、ほむらが時間を止めて動いているような――目にも止まらぬ動きで現れては消え、現れては消え、使い魔たちを打ちのめしていく。

だが、あれは時間操作ではない。まるでイチジクの使い魔がまばたきで瞬間移動しているような感じだった。

「あれが、天生目ゆう子の能力だね」

キュゥべえが確信したようにほむらを見て呟いた。

「あのグリーフシードは無花果の魔女を宿していたからね。その使い魔が持つ能力を身に付けていてもおかしくないはずだよ」

「そうね。でも普通は魔法少女として、本人の願いに影響された能力が身に付くものなんじゃない?」

魔法少女はその願いによって個々の能力が反映される。

佐倉杏子の幻惑する多彩な槍攻撃、巴マミの命を繋ぐリボン、暁美ほむらの時間操作。

しかし、天生目ゆう子の願いと瞬間移動は結び付かない。

「もしかしたら、あの動きとは別に他の能力を持っている可能性があるね」

「多重能力者、ということかしら。あのソウルジェムも、元々あの子の物ではないと考えればあり得る話ね」

ほむらは何か別のことを考えているようだった。

 

杏子とマミの肉体的ダメージが回復し、ようやく立ち上がったところにゆう子が降りてきた。

見上げると、残った使い魔たちはどんどん天井の暗い空間に引きずり込まれていく。この魔女の結界も赤紫色の霧と共に吸い上げられ消滅しようとしていた。

このままでは全員が円環の理による消滅を免れない。

「杏子ちゃん、大丈夫?」

使い魔たちの攻撃がなくなったのを見て、ゆう子はやっと言葉をかけた。

「ああ、大丈夫だよ」

杏子は嬉しそうな、悲しそうな、しかし優しい眼差しでゆう子を見て答える。

ゆう子の命は助かったが、その身体は生ける屍ともいえる忌まわしき存在・魔法少女となってしまった。

残酷な運命を背負い、ソウルジェムの呪縛から逃れることのできない魔法少女。もはや普通の人間に戻ることは叶わないこの結果は、何の因果によるものなのか。

だが今は深く考えている時間はない。

間もなくこの空間は杏子たちと一緒に消えてしまう。

「おいマミ、ゆう子も助かったんだし早くここを出ようぜ」

「そうね。 私たちが入ってきた結界の亀裂があるから、そこから外に出られるはずよ」

こっちよ、とマミが先導して走り出す。

そう、確かにゆう子は助かったのだから、あとは魔女の結界が円環の理で消滅してしまえばいい。魔女の魂の行方はわからないが、この空間ごと消えてなくなれば一緒に消滅するだろう。

「ゆう子、行くぞ」

「うん、杏子ちゃん」

ゆう子は走って後を追う。

ほむらとキュゥべえもそれに続いて走り出した。

マミが侵入した亀裂の跡はさらに大きく広がっていて、杏子たちはそこから難なく外へと出ることができた。

もう使い魔は追ってこないし、ゆう子も無事だ。

魔女の結界から出た先は、杏子が初めてゆう子と出会ったバス停の辺りだった。

空にはどんよりと厚い雲がかかっているが、さっきまで激しく降っていた雨はすでに止み、舗道にはあちこちに水たまりができている。目の前の工場からは黒い煙が吐き出されていて、何事もなかったかのような日常世界があった。

振り返って魔女の結界を見上げると、半球体の結界は頂部を強く引っ張られるように伸びきっていて、その先は無数の黒い糸のようなものが繊維状に繋がっており、さらに頂上部分には天を仰ぐ人の腕のようなものが見える。

そしてそのさらに上、空にかかる厚い雲はそこだけがぽっかり抜けているように青く晴れており、そこからうっすらと光明が差していた。

杏子もマミも、頂上部分の人のような姿をした何かに懐かしさを覚えるが、あれが何なのか……人なのか魔女なのかすらわからない。

ただ、悪意というか邪悪さというか、そういう害をなす存在でないことは感じ取れた。

ゆう子もその光景を不思議そうに眺めているだけで、誰も言葉を出さずに目を見張っている。

ほむらは、暁美ほむらだけはなぜか辛そうな表情をしていた。

繊維状の黒い糸が長く伸び全体を覆いつくすと、1本1本の糸がすべてを吸収するように一気に結界を飲み込んだ。

半径数百メートルの巨大な魔女の結界が、最後はあっという間に消滅した。中に残っていた使い魔も、無花果の大樹も、魔女の魂もみな、円環の理によって消滅したのだろう。

この消滅は、魔女の結界とその中だけに適用されていた。

結界を出た杏子たちは今でも雨に濡れた舗道を踏みしめているし、目の前の【薮塚南】と書かれたバス停も煙を吐く工場も、今までの日常と変わらない様子を呈している。

この世に決して産まれるはずのない魔女の魂が、グリーフシードから抜け出たことに反応した円環の理。

まるで黒いドレスを纏ったような姿で天を仰ぎ、巨大な結界を消し去ったあの、人とも魔女とも見えない存在が円環の理なのか。

杏子たちの頭上で、その黒いドレス姿が悲しげに雲間の光の中に消えていった。

 

続く

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