オリジナル小説 魔法少女まどか☆マギカ

【まどマギ小説】魔法少女まどか☆マギカ 別編~再臨の物語~(2-21)

投稿日:2018年5月14日 更新日:

再臨ロゴ2

 

魔法少女は魔力で傷を癒すことはできるが、死んだ者を生き返らせることはできない。今マミの目の前にある杏子の身体は、大きな槍で胸を突き刺され、大量の出血の跡を残し、命尽きているように見えた。

しかし、杏子は生きている。

マミは突き刺さった槍を掴む杏子の腕を見た。無残に千切れた左腕、その手の指には杏子のソウルジェムを留めた銀の指輪がはまっていた。

魔法少女の【死】とは、ソウルジェムの破壊か、魔力の限界を迎えて円環の理に導かれる時。そのどちらかが完全な死を与えるが、杏子の指にはソウルジェムがある。そしてこの世に身体を残しているということは、円環の理に導かれているわけでもない。杏子の魂は、今なお生き続けている。

(佐倉さん、あなたは流石だわ)

マミは杏子の魔法少女としてのセンスに驚いた。突き刺された槍は螺良姉妹にやられたのだろう。魔法少女姿の杏子は胸にソウルジェムを装着していたはず。そこをひと刺しで砕かれようとした瞬間、その刹那、杏子は自ら魔法少女を解いたのだ。槍はそのまま突き刺さったが、魂の宝珠であるソウルジェムは指輪に戻り、損壊を免れていた。

(トドメの一撃を、そんな受け方ができるなんて)

マミはすぐに千切れた左腕を槍の柄から剥がしてしゃがみ込むと、元の左腕に繋ぎ当てるようにして魔力を向け肉体修復にかかった。杏子のソウルジェムは身体から離れたが、それはほんの数十センチ。これなら肉体との結合が途切れることはない。

(最後に残った僅かな魔力で、ギリギリ命を保っていたのね)

魔法少女を殺すなら、ソウルジェムを砕けばいいことくらいは螺良姉妹もわかっていたはずだ。杏子の胸をひと突きで完全に仕留めたと思ったのだろうが、まさか今わの際に自ら魔法少女の姿を解くとは考えもしなかった。いや、自分でさえもそんなことは考えつかないだろうとマミは思った。

マミは全力で癒しの魔法を充てた。治癒の力を注ぎながら刺さった槍を抜き、胸の致命傷をみるみる回復させた。杏子の顔には血色が戻り、微かな呼吸の動きが見られるようになった。まだ目を覚まさないのは、意識を深く眠らせて冬眠するように肉体の活動を最小限に抑えているせいだろう。

その時、螺旋階段の上の方から声がした。

「お姉さん、来てたんだ」

薄暗い階段の手すりに手を掛けて下りてきたのは螺良くるみだった。さっきまで誰もいないと思っていたのに、いつの間に現れたのか。マミはその気配さえ感じることができなかったことにゾッとした。

「大事な用事はもう済んだ?」

くるみがニコニコしながら訊いてきた。マミはすぐに癒しの魔法を止め立ち上がった。治癒を済ませたらすぐに逃げるつもりだったが、杏子の意識が戻らないうえにくるみに見つかってしまった。いや、もしかしたら最初から見られていたのかもしれない。

「これは、あなたの仕業なの?」

マミは穏やかに、しかし緊張しながら言った。

「ふふふ、それはくるみじゃないよ。あかねお姉ちゃんがやったの。その人、佐倉さんだっけ。お姉さんのお友達なんだよね」

「ええ、そうよ。佐倉さんを返してもらえるかしら」

「いいけど、もう死んじゃってるよ」

やはりこの姉妹は、杏子が死んだと思っている。マミは冷静に言葉を繋げた。

「だったらもう用はないでしょ。佐倉さんはあなたたちのおもちゃではないのよ」

「じゃあ、お姉さんがくるみと遊んでくれるなら返してあげてもいいよ」

「そうね。そういう約束をしたけど、私もあなたのおもちゃではないの」

まるで子供とのやりとりのようだが、くるみの言う遊ぶとは、命のやりとりなのだろう。くるみはオフィス街の公園で出会った時と同じ格好をしているが、あの時の幼さは感じられない。声は5 ~6歳の少女そのものだが、雰囲気はまるで別人だった。

「そういえば約束してたよね。どんな約束だっけ」

くるみは少し考えてから

「指きりげんまん 嘘ついたら はりせんぼん飲ます」

と、数時間前にマミが別れ際に歌ったわらべ歌を口にし不気味な笑みを浮かべた。

「お姉さん、すごく強いでしょ。きっと紫色のお姉さんよりも、そこの佐倉さんよりも。ううん、もしかしたらくるみが今まで会ってきた魔法少女の中でも1番強いと思うよ。公園でソウルジェムを見せてもらった時にわかったの。穏やかな話し方してるけど、秘めてる魔力はわかるんだから」

「あら、お世辞はいらないわよ? 私は戦いたくないの。あなたたちの遊びに付き合うつもりはないのよ」

「くるみがこんな姿だから勘違いしてるんだと思うけど、これでもお姉さんよりずっと年上なの。冗談で言っているわけじゃないんだよ」

「飲み込みが悪いのね。佐倉さんを返してくれれば見逃してあげるって言ってるのよ」

「へぇ、やっぱり強いんだ。そんな強気なこと言ってくるなんて、よっぽど自信があるだね」

くるみの口調が、徐々に大人びてきた。実際の年齢はわからないが、魔法の力で姿を幼い少女に変えているらしい。キュゥべえも、螺良姉妹が魔法少女になったのはマミよりもずっと前と言っていた。ということは、年齢も魔法少女としての経験もマミの上をいくのだろう。そして遂に、その本性を現し た。

くるみは「ふふふ」と笑ってから、真っ黒なソウルジェムを掲げ、黒き光を纏い、暗黒の魔法少女へと姿を変えた。

「その姿は……無限の穢れと絶望、そして悲しみに侵されているのね」

『違うよ。くるみはどんな穢れも絶望も、悲しみさえも糧として生きているの。永遠に穢れを溜め続け、絶望を飲み込み、悲しみを抱き続ける。くるみは魔女にもならないし、円環の理も覆す。そして、この世の黒き感情の頂点になるの』

「何を、言っているの?」

『わからない? すべての負の感情、恨み・嫉み・悲しみ・怨嗟・憎悪・呪い・絶望……その頂点は何だと思う?』

くるみのテレパシーがマミの頭の中に、心の中に強く響く。

『それはもう、悪魔と呼ぶしかないじゃない。黒き感情の頂点は、黒き悪魔なんだよ。円環の理が正の感情の頂点なら、くるみは負の感情の頂点としてこの世の理となる。その為にはもっともっと、たくさん穢れが欲しいの。負の感情を凝縮したエネルギーが欲しいの。だから……お姉さんのソウルジェムに溜まる穢れも、くるみが食べてあげる』

のっぺらぼうなくるみの黒い影は薄笑いの口を大きく開け、顔からマミに向かって飛び込んできた。マミは素早く飛び上がり身体を捻って身を躱すと、橙色に輝くソウルジェムを掲げ魔法少女に変身した。そのまま階段に横たわる杏子の前に着地し、固有魔法である拘束リボンを出現させた。リボンを伸ばし杏子の身体にぐるりと繭のように巻き付けると、表面の蝶結びには赤い錠前が施された。するとリボンの繭は一気に収縮され、錠前の鍵穴の中に吸い込まれるようにして消えてしまった。カチリと鍵のかかる音が鳴り、杏子を封じ込めた錠前はマミの手の掌に乗った。

「佐倉さんは返してもらうわよ」

魔法の錠前は光の粒となり、マミの右頭部にある髪留めのソウルジェムに吸収されていった。

「私のソウルジェムも、佐倉さんのソウルジェムも、あなたたちの糧ではないわ。魂の宝珠であるソウルジェムは、希望と祈りによって生まれた奇跡の結晶。その中に宿る負の感情も、正の感情も、私たちを育んだ大事な思い出。負の感情の頂点が悪魔だなんて、勘違いもいいところよ」

『へぇ、不思議なことを言うんだね。お姉さんならわかってくれると思ったんだけど』

「正しさも間違いも、明も暗も、強きも弱きも、すべてが表裏一体となって生きているのが人間なのよ。私たちは魔法少女であり、人間でもある。正しさがあるから間違いに気付ける。明るさがあるから暗さを避けようとする。強さがあるから弱きを助ける。どちらかだけでは何も生まれないわ。あなたも同じよ、くるみちゃん」

『じゃあ、どうしてくるみのソウルジェムは輝かないの? 絶望と呪いで穢れに溢れ、黒き感情だけで成長し続けるの? お姉さんの言っていることと矛盾してるよ』

「絶望と希望の差し引きはゼロ。絶望に溢れた分だけ希望を祈れば、ソウルジェムは再び輝くはずよ」

マミの言葉は強かった。くるみたちがどれだけ暗い道を歩んできたかわからないが、ふたりが魔法少女になる瞬間はソウルジェムが輝いたはずだ。絶望に堕ちた今は黒く澱んでしまったが、希望を祈れば再び輝きを取り戻すことができると信じた。

かつて、自分がそうであったように。

 

続く

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