オリジナル小説 魔法少女まどか☆マギカ

魔法少女まどか☆マギカ 別編~再臨の物語~(2-10)

更新日:

再臨ロゴ2

 

兵隊人形をすべて退治した杏子は念の為に辺りを見回すが、もう残っている人形はいないようだった。

「大丈夫か? ゆう子」

クリスマスツリーと台座の隙間から顔をのぞかせるゆう子に向かって問いかけた。ゆう子の身体の損傷は大したことはなく、肩の傷もすでに魔力による修復が済んでいる。ただ、銃弾をまともに受けた上着の肩の部分には、生々しい貫通痕が残っていた。

「杏子ちゃん、ありがとう。やっぱり私ひとりじゃ何もできないね」

「当ったり前だろ、お前はまだ半人前の魔法少女なんだから」

杏子のもっともな言葉に、ゆう子はシュンとしてしまった。まだ魔法少女となって数日、実戦経験も浅いうえに戦いの手ほどきを何も受けていないゆう子は、魔法少女としては半人前以下だった。ションボリとしているゆう子を尻目に、杏子は部屋の壁にできた裂け目に近づき

「ここは魔女の結界だ。この裂け目から外に出られるはずだな」

小さな壁の裂け目に向けて「よっ」と槍を突き通す。頑丈そうな壁はボロボロと脆く崩れて、外に抜けられそうな穴が開いた。

杏子は黙って下を向いているゆう子を見て

「いつまでもショボくれてんじゃねえぞ、ボンクラぁ」

と言って槍を肩に担ぐと、クルっと背を向けた。

「でも、その半人前の魔法少女の面倒を見るのが今回のあたしの役目だった。ひとりにして悪かったな」

「え?」

「さっきのは使い魔だから良かったけど、この間みたいに魔獣なんて出てきたら危なかった。ゆう子をグリーフシードから遠ざけた方が安全だと思ったんだけど、言い方が悪かった。あたしがどうかしてたよ」

背を向けたまま、言葉を続けた。

「魔法少女はさ、こうしていつも危険と隣り合わせなんだ。もし戦いに敗れて死ぬようなことがあれば、その魔法少女は世間から忘れられる存在になっちまうんだよ。アンタには失っちゃいけない大切なモンがたくさんある。失ってはいけない家族がいる。だからあたしが守ってやらなきゃいけなかったんだ」

「杏子ちゃん」

「ゆう子の覚悟は今の戦いでわかったよ。けど、絶対に死ぬんじゃない。いや、あたしが絶対に死なせない。……繰り返しちゃいけないんだ」

ゆう子には、最後の言葉の意味はわからなかった。

「うん。でもね、杏子ちゃんも絶対に死んじゃダメだよ。杏子ちゃんにだって大切なものはたくさんあるんだから。杏子ちゃんが死んじゃったら悲しむ人がいるんだから」

「はは、あたしには失うモンなんて何もないさ。けど、あたしは強い。どんなヤツにも決して負けない」

「違うよ!」

ゆう子は強く否定した。

「杏子ちゃんは強いよ、どんな相手にも負けないと思う。でも、ソウルジェムの穢れには勝てないんでしょ? グリーフシードが見つかっても、助からないかもしれないんでしょ? さっき杏子ちゃんが言ってた、死ぬことを覚悟してるって、そういうことなんだよね」

悲しそうな目に涙を浮かべる。ゆう子は半人前の魔法少女でも、自分たちの置かれている状況がわかっていた。

「ねえ杏子ちゃん、私が叶えてもらった願い、覚えてる?」

 

――(杏子ちゃんと、お友達でいたい)

 

「私は最後まで、叶えてもらった願いを大切にしたい。私のたった一度の奇跡を無駄にしたくない。だからお願い……失うものがないなんて言わないで。死ぬ覚悟があるなんて、諦めたこと言わないで」

頬に涙がポロポロと流れた。

「お、おい……ゆう子」

「私、本当はすごく怖いの。この間も、今も、怖くて仕方ないの。私には魔法少女なんて向いていないんだと思う。なんの取り柄もない普通の中学生だったんだもん。でも後悔はしてないよ。叶えてもらった願いは、とても大切なものだから」

涙を浮かべたままニコっと笑った。溢れた感情が、素直な言葉と涙で吐き出された。

「ったくもう、調子狂うよなぁ、ホント」

杏子は頭をポリポリと掻きながら

「なんかさ、前にも似たようなヤツが居たような気がするんだよな。誰だったかぜんぜん思い出せないんだけど、そうやって素直で真っすぐで弱っちいんだけど、心はとても強いヤツだった」

「弱っちい?」

「そ、ゆう子と一緒だな」

あはは、っと笑う。

弱っちいんだけど強いヤツ……

杏子は記憶の彼方の誰かを思い出すことはできなかった。ただなんとなく、前にそんな仲間がいたような……気がした。

「おいキュゥべえ、その辺にいるんだろ?」

杏子は辺りを見回しながらキュゥべえを呼んだ。

「え? 近くにいるの?」

「あたしはキュゥべえに呼ばれてここに来たんだ。アイツが呼ばなかったら間に合わなかったかもしれない」

向こうの壁にかかるカーテンの隙間からヒョコっと現れたキュゥべえに言った。どこから入って来たのか、いつからいたのか、大きな白いしっぽを左右に振りながら小さな足をトコトコ歩ませ近づいてきた。

「僕だってたまたま居合わせただけさ。魔女の結界を探す能力は僕にはないからね。それにしてもここが魔女の結界だとしたら、さっきの使い魔がいなくなったのに現実世界に戻らないのはおかしいんじゃないかい?」

言われて杏子はハっとした。魔女や使い魔が住処とする特殊な閉鎖空間である結界は、その生み主の消滅と共に消えてなくなるはずだった。しかし今、結界は残ったままで現実世界に戻る気配がない。

「まだ、使い魔が残ってるのか?」

一気に緊張が走り、杏子は心までも冷え切るような悪寒に襲われた。結界内を見渡すが、兵隊の人形たちはすべて消え失せているし、ゆう子とキュゥべえの他には誰もいない。静かな空間に自分の鼓動の音が響いている。

「早く、ここを出ようぜ。何か……嫌な予感がする」

さっき杏子が開けた結界の亀裂は残ったままなので、そこからこの空間を脱出できるはずだ。杏子の呼びかけにゆう子とキュゥべえは結界の亀裂に向かう。

兵隊人形の銃弾で割れた鏡にゆう子が映った。

不規則に歪んでいる鏡には……

白い影のようなものが舞っていた。影はゆう子の後ろに張り付き追っている。

「ゆう子、走れ!」

杏子は大声で叫んだ。叫ぶと同時に視線をゆう子に向けるが、そこに白い影は見えない。

「どうしたの、杏子ちゃん」

ゆう子は言われるままに走り出す。

「いいから早く、その亀裂から外に出るんだ!」

と言って杏子も亀裂に向かって走り出した。ゆう子の後ろには何もいないが、さっきのは見間違いではない。槍を強く握りしめ、いつでも迎撃できるよう構えた。

ゆう子が鏡の前を通り過ぎたその時、

鏡の割れ面の隙間から白い人影のようなものが飛び出してきた。立体的な真っ白い影がクルクルと水平に横回転しながらゆう子に迫る。

(ダメだ、間に合わない!)

亀裂に向かうゆう子も気配に気付き後ろを振り向くと、白い影はもうすぐ目の前にいる。思わず両手で頭を抱えるように身を伏せ、影の突進をギリギリで躱した。ゆう子の頭上をすり抜けた白い影は空中で止まり、回転をやめて人の形を見せた。

それは小さな少女のようなシルエットで、まるで人の影だけが真っ白く抜け出た感じだった。時折、クルリ、クルリと素早く横回転をしながら浮いている影は目も口も鼻も何もない。

杏子はすぐに影とゆう子の間に割って入り

「先に行きな、コイツはあたしが引き受けた」

と言って槍の穂先を向け身構えた。

「杏子ちゃん、私も一緒に戦うよ」

「いや、コイツは……強い。キュゥべえと先にここを出るんだ」

杏子は構えたまま、後ろを振り向かずに声を返す。

「杏子ちゃんひとりで大丈夫なの?」

「あたしには失っちゃいけないモンがあるみたいだからな。だから、あたしは強い。どんなヤツにも決して負けない」

精悍で、凛とした表情をした。背を向けられているゆう子には見えなかったが、杏子の声が優しく力強く聞こえた。

「わかった。杏子ちゃんは強いもんね。絶対に負けないよね」

「ああ、心配すんな」

その言葉を聞いてゆう子は立ち上がり、すぐに壁の亀裂に飛び込んだ。キュゥべえも黙って後に続く。白い影はすんなりとゆう子たちを外へ見逃した。

ゆう子の足音が途切れ、この異空間には杏子と白い影だけが残った。

「よお、アンタ最初からあたしを狙ってただろ」

杏子が話しかけると、影はまるで応答するようにクルリと回転した。

 

続く

 

ブログランキング・にほんブログ村へ



-オリジナル小説 魔法少女まどか☆マギカ

Copyright© アニもに! , 2018 AllRights Reserved.