オリジナル小説 魔法少女まどか☆マギカ

魔法少女まどか☆マギカ 別編 再臨の物語(1-9)

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>>>魔法少女まどか☆マギカ 別編 再臨の物語(1-1)

 

雨が降りそうだった。
さっきまでは明々と陽が出ていたのに
空には真っ黒な煙がもうもうと流れるように雲が広がっている。

「来そうだなぁ」

杏子は上目で空を見上げると、頬にポツッと雨粒が落ち
ひと粒の雨は群れをなして舗道を暗く染めていき
やがてサーッという音を立てて、六千石町はいっぺんに雨景色となった。

冷たい雨の中、背中にゆう子を背負って歩く。

ゆう子は同い年だが、自分よりも少しだけ背が低くて幼く見えるので

(そういえば昔、妹を背負って帰ったことあったな)

と、数年前に亡くした妹を思い出した。

(でも、モモはもっと軽かったぞ)

ふふっ、と思わず笑みが零れた。

雨はだんだん強くなり、ずぶ濡れの杏子を容赦なく冷やすが
ゆう子を背負う背中だけがとても温かかった。

クシュン!

幼いくしゃみをしてゆう子が目を覚ました。

「きょ、杏子ちゃん?」

「よお、起きたかい」

ゆう子はすぐに背負われているのに気付き、降りるねと言って足を伸ばそうとしたが

「心配すんなよ、ゆう子。もうすぐ家に着くからさ」

と言って杏子は両腕に力を入れ、地に着きそうになるゆう子の足を抱え直した。
ゆう子は照れくさそうに身体を預け
自分はどういう経緯で今こうして背負われているのかを思い出そうと少し沈黙した。

学校の前で杏子と別れ、教室で授業を受けていたのははっきり覚えている。
2時間目? 3時間目? 途中から意識が薄くなり、周りの声や音が遠のいていき

それから・・・

「わたし、どうしてたんだっけ?」

「覚えてないのか?」

そこから思い出せなかった。
ただ何となく恐ろしい夢を見ていたような気がして、はっきりしない記憶が断片的に

浮かんでは消え

浮かんでは消え

ノイズが走る映像のように映し出される。

「わたし、どうしてたんだっけ・・・」

同じ言葉を繰り返してからギュッと杏子にしがみつくと、それ以上は言葉を発しなかった。

(気を失う前の言葉は覚えていないのか?)

あの時の言葉は、グリーフシードや魔女としての記憶があるのかと思ったが。
杏子もそれ以上は聞かず、ただ黙々と歩く。

雨は休むことなく降り続けている。ふたりとも、もうずぶ濡れだった。

住宅街の十字路を左に曲がり、まだ灯りの入っていない街灯をふたつ過ぎると
【天生目】
の表札がある。

ゆう子はそこで降りると、杏子の手を引き

「杏子ちゃん、雨やどりしていって。ずぶ濡れのままじゃ風邪ひいちゃうよ」

そう言いながら玄関ドアの前まで連れて行き鍵を開けた。
背中の温もりがなくなり身体が冷えた杏子も

クシュン!

と同じようなくしゃみをしたので

「へへへ」

「クスクス」

ふたりで顔を合わせて笑ってしまった。

ゆう子は先に入って玄関の照明をつける。

「両親は仕事でいないから、遠慮しなくて大丈夫だよ」

「じゃあ、お邪魔するよ」

ふたりからポタポタ垂れる雨水で玄関も水浸しだった。
服も髪も、どうしようもないくらいに濡れてしまっていたので、ゆう子はシャワーを勧め

「杏子ちゃんにはちょっと小さいかな」

と言って着替えに自分の服を用意してくれた。

それから2階のゆう子の部屋へ行き、温かいお茶をふたりで飲むと
なんとなく落ち着いてきて、こうして過ごすのが長年の友達同士のような気がしてきた。

窓の外からは、ザーッという雨音が聞こえてくる。

「ねえ杏子ちゃん」

ゆう子はお茶の入ったカップを両手で持ちながら

「今朝の話、黒い卵みたいなシンボルだっけ? 杏子ちゃんが探してるって言ってた」

「あ、ああ」

「わたし、それ思い出したよ」

グリーフシードを・・・思い出した?

「思い出したって、どういうことだよ?」

杏子は思わず顔を強張らせ、大きな声を出してしまった。
あの時、学校で気を失ってすべて忘れているのかと思ったが、そうではなかったのか。

「ごめんね杏子ちゃん、怒らないで聞いてくれる?」

「怒らないさ、何も知らないのかと思ったからちょっと驚いただけだよ」

「実は、知らないんじゃなくて・・・さっきまで忘れてたんだけど」

ゆう子はお茶の入ったカップをテーブルに置き

「何日か前にね、夢の中に知らない女の子が出てきてその子に貰ったっていうか、えっと」

「夢の中?」

「うん、その子はこう言ってた」

私を助けて欲しい。
私の力になって欲しい。
この大切な、大切な魂を預かって欲しい。
やがて訪れる再臨の日まで。
これは、あなたの運命だから。

「再臨、だって?」

「そう言って、私に黒いシンボルを渡してきたの」

雨はさらに強くなり、窓の外でピカッと稲光りが走ると、暗黒のような雲間から雷鳴が轟いた。

「それでね、さっき学校であったことも、私のせい・・・なんだよね」

やはりゆう子は、学校でのことを覚えていた。

グリーフシード、魔女の結界、イチジクの使い魔。

「ごめんね、私のせいで杏子ちゃんを危険な目に遭わせちゃったんだよね」

目に、涙が浮かぶ。

「私、杏子ちゃんと友達になれて、すごく嬉しかったの。
最近はなんだか落ち込むことが多かったんだけど、杏子ちゃんと一緒にいたらとても元気になれて。
だからね、さっきのこと謝りたくて」

焦りと不安か、後悔と贖罪か、感情が溢れたゆう子の目から涙がこぼれ落ちる。

「あんなことしちゃったのに、杏子ちゃんは私を背負って家まで連れて帰ってくれて・・・
でもあれは私の意思じゃないの。
体が勝手に、でも私が見ていたのは杏子ちゃんを押し潰そうとする私で」

「ゆう子、落ち着け。あたしは平気だ。それよりゆう子は大丈夫なのか?」

「わからない。 でも私の中に誰かいるの。
夢に出てきたあの子じゃなくて、誰かが私を呼ぶの。
あなたは誰?
あなたは誰?」

ゆう子の腕が、顔が、身体がビクッと脈打つ。

ドクン!

と鼓動が強く響き、上体を反らせた格好で大きく目を見開いた。

そして両手を前に出し、掌の上に

暗黒よりも黒く
暗闇よりも暗く
純黒よりも濃く
球体の表面には漆黒のいかずちを纏う

グリーフシードを出現させた。

それを高く掲げたゆう子の口から

「杏子ちゃん、ごめんね」

と微かな声が聞こえた気がした

次の瞬間、

部屋が樹木のような幹を形成し、ゆう子とグリーフシードを取り巻くように包み込む。
空間が伸縮しながらゆう子の周りに集まると
枝を付け、葉を茂らせ、大きな無花果(イチジク)の樹が目の前に立ち上がった。

赤紫色の霧が広がり、杏子は空間の伸縮に弾かれるように後ろに飛ばされる。
そこには今まで過ごしていた部屋も壁も、何もない。

(魔女の結界だ!)

杏子が跳ね起きると
そこは昨夜の十字路や、昼間の学校での結界とは比べ物にならない
見渡す限り赤紫色の霧で包まれた世界が広がっていた。

高くそびえる無花果の樹。
幹の中心は空洞になっていて、その中にはグリーフシードを掲げるゆう子が見える。
樹の根本は地に付いておらず
幹を束ねて捻ったように先の尖った状態で少しだけ宙に浮いているようだった。

「つ、ついに姿を現したのか? これが、無花果の魔女?」

『いいえ、それは魔女ではないわ』

杏子の頭の中に声が聞こえる。

『グリーフシードの転生が始まるわ。あの子の魂と、魔女の魂が転換されようとしている』

杏子の前に、暁美ほむらが魔法少女の姿で降り立った。

「何だって? どういうことだ?」

「簡単に言うと、魔女の魂があの子の身体を乗っ取ろうとしているのよ。
あなたも知ってるでしょ、魔女はこの世に産まれないのよ」

「じゃあ、アイツは何なんだよ! あの樹の中心にはグリーフシードがあるんだぞ?」

ほむらは無花果の樹に向き直り

「私の邪魔をしないように忠告したはずよ。黙ってそこで見ていなさい」

「そんなこと・・・」

できるかよ!
と言って、杏子はソウルジェムを掲げると魔法少女へと姿を変え
一気にほむらを飛び越えて、無花果の樹に向かって突進した。

杏子の殺気に反応するように、無花果の大樹に生る無数の実が一斉に目を開く。
魔女の意思が持つ防衛本能なのか、それらはイチジクの使い魔となり
大樹への接近を阻むように杏子に迫ってきた。

この広い空間で無数の使い魔が連なって押し寄せる。
杏子は構わず突っ込み、使い魔の体当たりを直前で真横に大きく飛び身を躱した。

こちらが攻撃を繰り出せばまばたきで姿を消し、再び現れる際はどこに出るかわからないので
むしろ避けた方が安全と判断したのだ。

また、学校での使い魔の動きを見て
こちらから攻撃しなければ、あのまばたき移動をしないだろうと考えての行動だった。

そのまま杏子は使い魔の動きを避けながら徐々に無花果の大樹との距離を詰めていく。
使い魔たちは単調に突っ込んでくるだけなので、囲まれさえしなければ躱していくのは難しくない。

杏子は幾度も押し寄せる使い魔を振り切って
あと一息で無花果の大樹まで飛びつける距離まで来た。
大樹の中心で幹の隙間から見えるゆう子は、グリーフシードを掲げたまま動かない。

グリーフシードの転生を止めるにはどうすればいいかわからないが
とにかくゆう子とグリーフシードの干渉を止める。
ただそれだけを考えて、杏子は無花果の大樹に向かって飛び込んだ。

 

続く

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