オリジナル小説 魔法少女まどか☆マギカ

魔法少女まどか☆マギカ 別編 再臨の物語(第1部)

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――――円環の理

鹿目まどかの願いによって世界は再編され、力を使い果たした魔法少女は魔女とならずに消滅することとなった世界。
すべての魔女がこの世から消え失せ、また産まれることもなくなった世界。

かつては絶望の末に魔女へと変貌する運命にあった美樹さやかは、魔法少女の力を使い果たして消滅するという結末を辿った。

あれから数か月。

鹿目まどかの存在は人々の記憶から消え
巴マミは見滝原でキュゥべえと共に暮らし
佐倉杏子は見滝原中学2年に編入
暁美ほむらは姿を消していた。

 

この物語は
魔法少女まどか☆マギカのオリジナルストーリーです。
世界観・キャラクター・設定などはすべて原作を踏襲していますが
若干のオリジナル要素を含みます。

 

魔法少女まどか☆マギカ 別編~再臨の物語~(第1部)

 

「あれ、ここはどこだっけ?」

見滝原からバスに乗り、どれだけの時間が経ったか。ほんの少しのうたた寝のつもりで目を閉じていたら、いつの間にか深く眠ってしまっていたようだった。

「ああ、そうだった。あたしはマミとキュゥべえに言われて、六千石町に向かっているんだった。まったく、面倒なことを引き受けちゃったもんだよなぁ」

座席の上で足を組み直すと、佐倉杏子は昨日のマミやキュゥべえとの話を思い出した。



「マミとも相談したんだけど、佐倉杏子。この件は君に引き受けてもらいたいんだ」

白くて耳長の、猫のような姿をした生き物。 紅いビー玉のような眼で眉もなく、口を動かさずに喋る。コイツがキュゥべえ。キュゥべえは小さな体をピョンと跳ねさせ、巴マミの肩から飛び降りた。

「私も今、ここを離れることができないのよ。まさかこの見滝原にまだ魔女が残っているなんて思ってもいなかったんだから。 それに・・・」

マミはひと呼吸置いて、

「佐倉さんあなただって、魔法少女としてグリーフシードが必要でしょ?」

魔法少女…

そう、あたしたちは魔法少女だ。

そう呼称するのがとても久しく感じられ、懐かしくも、忌まわしきもある響き。

マミは続けた。

「円環の理によってこの世界から魔女が産まれなくなったのは確かなんだけど、まだ隠れ残っていた者がいたなんてね。つい先日、この見滝原に潜んでいることがわかった魔女が1体、そして今日わかったのが、見滝原の東にある六千石町にも1体、今はこの2体の魔女が確認できているの。私たちは魔法少女として、魔女を放っておくことはできないでしょう?」

魔女を放っておくことができないという意味。それは魔女が人間を不幸な死へと導いてしまうのだから、それを放っておくことはできないでしょ、とマミは言いたい。

そしてもうひとつの意味は、これも杏子とマミは百も承知な魔法少女としての大事なルール。魔法少女は魔女の落とすグリーフシードで自らのソウルジェムを浄化していなければ魔力を維持できない。

円環の理がこの世の定理となり、魔女が産まれなくなって久しい。

その間、杏子もマミも魔法少女として魔力を使う機会はなくなっていたが、彼女たちが魔法少女として存在する限り魂の宝珠であるソウルジェムは少しずつ、少しずつ濁っていく。円環の理がある以上、ソウルジェムが濁りきって魔女になってしまうことはないが

濁り=穢れが溜まればそれだけ魔力が弱まり
穢れは魂をむしばみ
理性や慈しみを失い
愛情や友情を失い
やがて円環の理によって消滅する

それが魔法少女としての運命。

「そんなことは、言われなくてもわかってるさ」

杏子は顔をそむけ頷く。魔女が産まれない平和な世界が続くことは2人にとっても喜ばしいが、一旦魔法少女となってしまったことで、その平和を傍観することもできないのは、杏子も頭でわかっていたが口にすることはなかった。だから今回の魔女が隠れ残っていた(杏子にとってはまだ半信半疑だが)と聞いて、先にマミが言った「魔女を放っておくことができない」のはすぐに理解した。

「それで?どうして今になって突然、それも2体も魔女が出てきたんだよ? だっておかしいじゃないか。円環の理がいつからこの世界の当たり前になったのか知らないけどさ、魔女が産まれない世の中に魔女がいた、なんて」

この世に産まれるはずのない魔女が、この世に存在している矛盾に納得できないのは当然だが、ただ杏子にしてみたら小難しい理屈にはさほど興味はない。マミはそんな杏子の性格をわかっているから、ただひと言

「その辺は、私が調べてみるわ」

とだけ答えた。

「ふ〜ん・・・で、マミは見滝原に現れた魔女を、あたしには六千石町に現れた魔女を退治してこいって、そういうことなんだな」

「つまり、そういうことね」
「つまり、そういうことだね」

マミとキュゥべえが口を揃えて言う。そこにマミが付け加えて

「ただね、魔女はまだ結界の中に潜んでいる状態だと思うの。私のソウルジェムで魔女の存在を探知はできたんだけど、とても微弱な反応なのよね。だからまだ街の人たちに影響は出ていないはずよ」

「今はまだ、ね」

今はなくても、いずれ
もしかしたら、近いうちに
猶予は、あまりない。

「ちぇ、つまり、そういうことか」

面倒くさいが、仕方がない。そんな杏子の表情を見てマミは

「片付いたら、美味しいスイーツをご馳走するから」

と笑った。

「マミ~、あたしは甘いもので釣られるお子様じゃないんだから」

「あら、でも私の作ったアップルパイ、食べてみたいと思わない?」

杏子は一瞬視線を斜め上に移してから

「仕方ないから、アップルパイで手を打つよ」

と笑って答えた。

 

 

 

 

杏子がバスから降りたのは、影が暗く伸びる夕暮れ時だった。

あれからバスに揺られながら1時間ほど、窓の外をぼんやり眺めながら考えることはたくさんあったが、特にまとまった答えが浮かぶわけでもなく頭の中は考えているようで考えていない時間を過ごしていた。

「詳しいことは、そのうちマミが知らせてくるさ。この街に本当に魔女がいるのか、確かめてみるか」

 

【薮塚南】

と書かれたバス停で降りたのは杏子だけだった。

バス停の前に広がるのはモクモクと煙を上げる工場で、まだ街の人々が働いている様子が感じられた。六千石町が工業都市で有名なのは、隣街から来た杏子も知っていた。ここに訪れるのは初めてだが、来た理由が理由だけに目の前にあるありふれた工場が吐き出す煙ですら、何かしらの物々しさというか凶々しさというかとにかく普通ではない雰囲気を感じた。

ついさっきまでは「魔女がいる」と言うマミに疑惑の念があった杏子だが、今ここに立って初めて

(いるかも知れない)

と感じ始め

(いや、いるかもじゃなくて)

「…いる」

最後は言葉に発した。

魔法少女ならきっと誰もがそうだろうが、杏子も初めて魔女と対峙した時は、魔女退治が恐ろしいと感じたものだった。あの時の膝の震え、鉛のように重たく感じた腕、背中を這った冷たい汗を・・・思い出した。

まだこの街に魔女がいる証拠は何もないが、杏子は魔女の存在を確信した。それは暗く沈みそうな陽の影や、不気味に広がる工場の煙を見たからではない。魔法少女としての、彼女の魂の宝珠(ソウルジェム)がそれを強く感じさせるのだった。

 

ふと気づくと、杏子が立っている道路の向かい側でひとりの少女がこちらを見ている。どこかの学校の制服を着た、杏子と同い年くらいの髪の短い活発そうな少女だった。沈みそうな夕陽の影が、その子から細長く伸びている。

「バス、今日はもう終わりですよー」

バス停のそばでしばらく難しい顔をしていた杏子を見て、バスを待っていると思ったのだろうか。

「そっちの路線バス、最終はもう行っちゃいましたよ。ほら、もう6時過ぎてます。こっち側の路線は9時くらいまで来るんですけどね。工場で働いている人たちが利用するからなんです」

時刻表をチラっと見ると、午後6時以降は空白になっていた。杏子は別にバスを待っていたわけではないが、少女の親切な言葉を無下にはできないので

「ああ、そうだった。 ありがとう」

と手を振った。少女はニコっと返し、陽の沈む側と逆向きに歩き出した。去っていく少女の後ろ姿が暗い影で消えていくのを見てから

「さて、日も暮れてきたし、この街の魔女サマを探してみるかな」

と呟くと、薄いキーンという音と共に、左手に魂の宝珠・ソウルジェムを出現させた。ソウルジェムは赤く、紅く、しかしうっすらと黒い濁りのようなモヤがほんの少しだけ混じっている。ただこれくらいの濁りは、穢れが溜まっていると言うほどではないことを杏子はわかっているし、魔女の探索にはソウルジェムを探知機のように使うことは過去に何度も行なってきたことなので
神経質に気にするほどではなかった。

 

ソウルジェムを使った魔女探索は、魔法少女の一般的な行動だ。

ソウルジェムは魔女の結界に反応し発光するから、光の強くなる方へと進めば自然と魔女に近づくことになる。先に杏子が感じた魔女がいるという感覚は、ソウルジェムの発光ではなくソウルジェムを有する魔法少女としての勘に近いものだから、実際に魔女がどこにいるのか、近くにいるのか遠く離れているのかまでを把握していたわけではない。

ただ漠然と「いる」と直感したに過ぎないので、今度は場所を特定していくことにするのだ。

杏子はソウルジェムを持つ左手を四方に掲げ、光の強くなる方角を探す。が、昨日マミが言ったとおり光の反応は微弱で、正確な方角は掴めそうになかった。

仕方がないので、大まかに東の方かな、と見当を付けて杏子は歩き出した。

ただし、ソウルジェムの光が微弱だからといって油断はできない。結界がどこにあるかはわからないが、ここはもう魔女のテリトリーかもしれないし、もしかしたら使い魔だっているかもしれない。

夕陽は杏子の背中に落ちて、辺りはすっかり暗くなっていた。

「魔女サマの活動にはうってつけの時間ってわけか」

歩きながら杏子が考えるのは、もしここで魔女や使い魔が現れたらどう動くのか。頭の中で動作のシュミレーションが巡っていた。

そんな時に目に入ってきたのは、次の交差点で信号待ちをする先ほどの少女だった。杏子はソウルジェムを一旦後ろ手に隠し

「あれ、まだこんな所を歩いていたのか」

赤信号で立ち止まる少女の横に並び、杏子は気軽に声を掛けた。

「あ、さっきの」

ペコっと会釈をした少女の顔には、さっきの快活さや明るさがなく、どちらかというと悲しそうなで物憂そうな表情だった。

「私、家に帰る途中なんです。 でもちょっと帰りづらい事情があるっていうか、あはは」

作り笑顔と微かな溜息を吐いて、少女は青に変わった信号を歩き出す。杏子は少し遅れて歩みだし

「よお、あたしもこっちに向かうんだ。途中まで一緒に行かないか?」

と声を張り上げて言った。

「え、それは構いませんけど・・・」

「あたし、今この街に着いたばかりなんだよ。 だから道がよくわからなくてさ。こっちの道はどこに向かってるんだい?」

「このまま真っすぐ行くと右側に大きな病院があって、その先は住宅街と商店街です」

「そっか。 ところでさ、あたしは佐倉杏子っていうんだけど、名前を聞いてもいいかな」

白い歯を見せて笑顔で尋ねる杏子に、少女も少し気を許したのか

「私は天生目(あまのめ)ゆう子っていいます。 あの、佐倉さんは何年生ですか?」

と聞いてきた。学年を聞かれたことに杏子は少し時間を置いて

「一応・・・中学、2年生かな」

「え、私と同じ学年なんですね。大人っぽいから年上かと思いました」

同学年の親近感か、ゆう子は最初の明るさを見せ始め

「私、尾島中学の2年生です。 佐倉さんはどこの学校ですか?」

「あたしは、えっと・・・見滝原だよ」

杏子は見滝原中学に編入しているが、なんとなくそれが慣れないのか、在学校を名乗るのに照れていた。

「見滝原、隣の見滝原市ですね。でもこんな時間に見滝原からこっちに来て、何をしてるんですか?」

もっともな質問だな。と思いながらも、まさか魔女退治に来ましたなんて冗談みたいな話をするわけにもいかないので

「ん~、人に会いに来たんだよ」

と曖昧に答え

「それよりも」

杏子は自分の目的をこれ以上聞かれる前に話題を変え

「ゆう子は、あ、ゆう子って呼んでもいいかな?さっき言ってた帰りづらい事情って、どういうことなんだい?」

出会って間もない相手からすぐに名前を呼ばれて少し戸惑ったような顔をしたゆう子だが、同い年で、屈託のない笑顔をする杏子に警戒心も解け

「ゆう子で大丈夫です。 あの、事情っていうか、私が悪い話なんですけど・・・。私、部活で陸上やってるんですけど、両親には勉強が疎かになるって反対されてて。でも私は走るのが好きだから、頑張って部活を続けてるんです。そのことで最近は両親がとても冷たくて、私の成績が落ちてるせいなんですけどね」

なるほど、普通の中学生の話題だ。

「だから何となく家に帰りづらいっていうか、今日も部活で少し遅くなっちゃったから」

中学生なら部活で夜の6時を過ぎてしまうことがあるかもしれないが、そういう家庭の事情があれば帰りの足取りが重たいのも頷ける。

「ごめんなさい、面倒くさい話ですよね。 気にしないでください。 家出少女にはなりませんから」

あはは、と笑いながら頬を軽く搔くゆう子を見て、杏子もそれ以上は聞かずに

「そういうことか。じゃあ勉強も頑張って、両親に部活を反対されないようになるといいな」

そんな当たり前のような言葉をかける。

「そのとおりなんですよね。だから帰って、ちょっとでも勉強しておきます。じゃあ私の家、こっちなんで」

と言ってゆう子は十字路を左に曲がり手を振った。杏子は後ろ手のまま笑顔で見送り、ふたつ先の街灯を過ぎたゆう子の後ろ姿が暗く消えていくのを見つめ

「勉強と、部活かぁ」

と、少し羨ましく思った。

同じ年の杏子からすれば、ゆう子のような普通の中学生活があったかもしれないし魔法少女としての過酷な運命を否定するつもりはなかったが、自分がもしそんな生活をしていたらどんなだろう、と考えてみるのも当然だった。

(でも、あたしも勉強は苦手だな)

ひとり苦笑して

「じゃあ、あたしも部活に精を出してみるか」

「あたしの部活は…、魔法少女部?」

クスっと笑いながら、ソウルジェムを持ち直したその時

 

突然モヤっと景色が歪み、辺りに赤紫色の霧が走った。

周囲の温度が一気に冷え、憎しみに満ちた空気が広がり、憎悪というか、凶悪というかとても嫌な感情を乗せた視線で誰かに、いや何かに見られている。

 

暗い、

 

暗い目が

 

杏子の真上にあった。

 

「あっ」

っと、後ろに飛び退きながら杏子は掌にあるソウルジェムを掲げると体全体が赤とオレンジの光に包まれ

前側が大きく開いたローブのような上着に
赤色のスカート
膝下まであるブーツ
胸元にはペンダント型になったソウルジェムを当て

飛び退いて着地するまでのほんの僅かな間に、迷いなく魔法少女へと姿を変えていた。

この瞬間的な動作はさすがに慣れたものだった。もちろん右手には大きな穂が特徴的な長い槍を持っている。

着地と同時に見上げると、暗い目はもう目前まで迫っていて、杏子はすぐにもう一歩後ろに飛び退く。魔法少女となった杏子の動きは速く暗い目が距離を詰めてくる前に槍を振り上げる攻撃で先手をとった。が、槍の穂先が正確に相手の眉間を捉えたと思った瞬間、暗い目はスッと閉じられ、赤紫色に姿を消した。

「?」

すると今度は、振り上げた槍柄の真下に目を開き、そいつは一気に胸元へと迫ってくる。

「くっ」

杏子は反射的に振り上げた槍をそのまま縦回転させ、槍の石突の部分を振り上げる。タイミングは完璧だ、これは避けられるはずがない。幾度もの魔女退治で使い慣れた愛用の槍だから、攻撃を繰り出した瞬間にそれが当たるか否か、さらに言えば、どの程度のダメージを与えられるかまでイメージできる。

がしかし、またも目は閉じられ、槍の石突は赤紫色の霧を斬る。

今度は暗い目も距離を取り、槍の間合いの外側で大きく見開いた。

「コイツが…、魔女なのか?」

赤紫色の霧の中に浮かぶ暗い目は、丸い輪郭を纏っているようでもあり、目だけが浮いているようでもあり、ただただ杏子を見つめて静止した。

 

続く

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